ベネズエラ出身の名デザイナーのブランドに降って湧いた「文化の盗用」批判
マリア・カロリーナ・ホセフィナ・ペカニンス・ニーニョという名前が誰のことかと尋ねられても、それに答えられる人は誰もいないであろう。この名前の本人とはベネズエラ出身のファッション・デザイナー「キャロリライナ・ヘレラ(Carolina Herrera)」である。
ヘレラはベネズエラの首都カラカス出身で、軍人の娘として裕福な家庭に生まれ、13歳の時に祖母から当時世界のファッション界で名を馳せていたスペイン・バスク出身のクリストーバル・バレンシアガを紹介してもらった。幼少の頃から高級ファッションと身近に接していた彼女であった。1981年にファッションショーで自らのコレクションを発表したのを皮切りにラテンアメリカを代表するファッションデザイナーとして成長した。
彼女がデザインした服を長年好んだ女性にジャクリーン・ケネディー・オナシスがいる。ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジュリー、メリル・ストリープといったハリウッドのスターも彼女のファッションのファンである。
また香水・フレグランスの分野においても彼女のブランドがショップコーナーの一角を占めるまでになっている。(参照:
Wikipedia)
現在彼女は80歳で、1年前から32歳のウェス・ゴードンをクリエイティブ・ディレクターに任命して彼女は第一線から退いている。ところが、ウェス・ゴードンが「Risort 2020」と題して発表したコレクションの中に、メキシコ民族の伝統ある服のデザインをモチーフにしたものが「文化の盗用」(*他民族の文化などを無関係の他者が表層的に模倣すること)にあたるとして、メキシコ政府のアレハンドゥラ・フラウスト文化相が5月10日付でキャロライナ・エレラとウェス・ゴードンの両名宛てに正式に苦情の書簡が送ったことが明らかにされたのである。(参照:「
El Pais」、「
La Vanguardia」)
その苦情を伝える書簡の中で、フラウスト文化相は「コレクションの一部はメキシコの特定の地方民族の世界観に通じるものだ。そのルーツは明らかな根拠に基づいて発展したもの。それをファッション企業が使用した根拠を公に説明して欲しい」と訴え、更に、「
この一連の服を提供した民族共同体が、このコレクションの販売による恩恵を受けるようになるのであろうか」と尋ねたのである。
そのひとつは、白の下地に光沢ある動物の刺繍に花柄と枝葉模様が混ざっているものはイダルゴ州の人口18000人の小都市テナンゴ・デ・ドリア(Tenango de Doria)に伝わっている刺繍柄から模写したものであると指摘されている。
次にダークの下地にふんだんな花模様の刺繍はオアチャカ州の複数の都市を囲むテウアンテペク(Tehuantepec)地峡を代表する刺繍柄である。
さらに、メキシコを代表する模様柄サラペ・デ・サルティーリョ(Sarape de Saltillo)である。ルーツはメキシコ北部のトラスカラ州だとされているが、今ではメキシコを代表する織物となっている。
Sarape de Saltillo柄