しかし、このデザインは、一人のデザイナーの作品からの「盗作」ということではなく、すでに公知されているデザインから模写したということで法的に訴えることはできない。ただ、同文化相は世界的に著名なデザイナーがメキシコの土着民族の文化が表現された民族衣装からヒントを得てそれを自らのコレクションに無断でそれを加えたということを問題にしているようである。
フラウスト文化相はコレクションRisort 2020の一部の作品はメキシコの土着民族の文化を守る権利という点において議論されるに値するものだとしている。それは倫理面で配慮するという原則について注意を促すべく喚起される必要があるとしている。
これはペーニャ・ニエト前大統領の政権では恐らく取り上げられなかったであろう。ところが、昨年12月就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領は社会で差別されている人たちへの配慮を彼の政治の重点の一つに挙げている。その意味で、メキシコの土着民族の文化などを守るということにも関心をはらっているのである。だから、同文化相はキャロライナ・エレラとウェス・ゴードンの両名に対し模写の基本となった民族衣装の所有者である土着民に新しいコレクションを販売した利益の一部を還元する意向があるのか尋ねているのである。
同文化相の苦情の書簡に対し、その2日後にウェス・ゴードンから回答があった。次のようにゴードンは答えた。「Resort 2020のコレクションを通して、メキシコ文化の豊かさに敬意を表し、また数々の素晴らしい民芸作品を傑出させるものだ」「この国への愛着とそこで作られている信じられないほどの素晴らしい作品を密かに伝えたいと望んでいた」と述べた。そして、「メキシコを旅行した時に見た民芸作品への私からの賞賛は年とともに高まって行った。それをこの新しいコレクションでもってこの素晴らしい文化遺産をより価値あるものにしたいと試みている」と32歳のゴードンが回答として表明したのである。
しかし、彼女の回答にはそこからインスピレーションを得たことは認めながらも、新作の販売による利益について何らかの形で還元したといういうことには一切触れていないという。37年間デザイナーとして活躍し、72回のファッションショーを行って自らのコレクションを紹介して来たキャロライナ・エレラにファッションの創作を任されたウェス・ゴードン。その彼女からのメキシコ政府フラウスト文化相に宛てた回答としては些か不十分だと同文化相は判断するであろう。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身