話題の映画『RBG』日本版コピーに見るジェンダーバイアス。日本の映画配給会社のカビ臭い感性に辟易

アメリカ版とはまったく違う日本版ポスター

 『RBG 最強の85才』のアメリカ版ポスターには、「Hero、Icon、Dissenter(英雄、アイコン、反対意見者)」と書かれていた。ところが日本版ポスターに書かれていた言葉は「妻として、母として、そして働く女性として」だった……。  このドキュメンタリーは、アメリカの大学の法学部が女性に門戸を開き始めた‘50年代に名門大学の法学部に入学したRBGが、当時、まだ女性が全体の2%を占めるに過ぎなかったアメリカ司法の世界で、女性差別により才能がありながらも仕事さえなかったところから這い上がり、いかにして弁護士の実績を積み重ねて最高裁判事まで上りつめ、ついには前述したような異例の社会現象まで巻き起すに至ったかについての話だ。「働く女性として」どころの話ではない。  確かに、この映画では、「妻として」「母として」のRBGも描かれていることは描かれてはいる。だが、それは話の全体として、全部合わせても15分あるかないかの要素に過ぎない。さらに言うと、元から体の強くなかった夫がRBGの出世を献身的に支え続けたという要素だ。  だが、この日本版のコピーだと、あたかも「社会的にどんなに立派なことをしようが、母親として、妻としてダメなら、それは女性としての価値がない」と言わんばかりではないか。  これがもし男性であれば、「家庭人としてはよくなかった」ことが、よほどひどい場合は責められることもあるとは思うが、ほとんどの場合、「そんなことはどうでもいい」とばかりに、社会的業績をためらいなく評価するのではないだろうか。この辺りのジェンダー・バイアスが今日になっても評価されないのはいかがななものか。

炎上する宣伝は「日本向けの味つけ」の範疇?

 これに限らず、日本の映画宣伝における女性蔑視的な表現や、本来の内容の歪曲は目にあまるものがある。とりわけ、「女性が強く見えすぎる」ということを必要以上に恐れているところがあるように思う。  司法関係の作品といえば、‘00 年代前半のヒット映画となった『キューティー・ブロンド』が思い出される。この映画ではパリス・ヒルトンのような金持ちセレブの軽いノリだった女のコが、「彼氏を追いかけるため」というのが当初の理由ではあったものの、一念発起して勉強して大学の法学部に入学。ついには立派な弁護士に成長する話だが、原題は『リーガリー・ブロンド』だったところが、邦題は『キューティー・ブロンド』に変更されていた。これでは、法の勉強を始めていない、成長する前の主人公の姿しか捉えていないように思えてしまう。  また、作品のタイプは違うが、現在のアメリカで大活躍中のプラスサイズな女優メリッサ・マッカーシーの扱いにもひどいものがある。彼女は現在、ハリウッドでは3番めの高額女優だが、彼女の主演作が日本で公開されることは極度に少ない。欧米では大ヒットした『SPY/スパイ』も、「太った中年女性がスーパー・ヒロインとして大活躍」というメッセージを歪めるように、DVDのパッケージでは彼女の体型が細くされていた。  映画の本編が「強くて独立した女性像」を見せようとしているのにもかかわらず、不必要に「女性の内面の孤独」のような、あたかも「結局は男性の存在がなければ生きていけない」とでも言いたげな要素を無理やりくっつける例もよく見受けられる。  日本独自の邦画やドラマなどで、日本人好みに味つけするのであれば、時代遅れであるとは思うが何歩か譲って、まだ理解できる話ではある。  ただ、よその国の作品メッセージまでをも、日本でさえ古臭くなりつつある女性観で歪めて宣伝しようとする行為には、世論操作的な意図や行きすぎたものを感じざるをえない。 <取材・文/沢田太陽>
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