Tony / PIXTA(ピクスタ)
2019年4月12日、衆院と参院の予算委員会に所属する野党議員は、予算委員会の開会を衆参の予算委員長に要求しました。それを受け、ハーバービジネスオンラインに
『与党の審議拒否は、国会制度の想定を超えた蛮行。これこそが「サボり」である』を寄稿したのが、4月18日でした。この論考では、主に次のことを指摘しました。
・野党からの委員会開会の要求に、委員長が応じないことは国会制度の想定外
・本来の内閣チェックの仕組みである質問制度が休眠状態で、予算委員会はそれを代替してきた
・衆参予算委員長の開会拒否は、国会を軽視する行動
ところが、本論考の執筆段階(6月7日)に至っても、衆参の予算委員長は、予算委員会を開会していません。
衆院では、3月1日の開会を最後に、98日間も開会されていない状態が続いています。
これは、
内閣支持率を下げさせないための目論見と考えられます。これまで、
内閣支持率は、国会審議が白熱すると下がり、国会閉会中に上がるといわれてきました。実際、安保法制、森友問題、加計問題、労働問題で、国会審議が白熱した年度前半に、内閣支持率が下がり、そうでない時期に上がる傾向が、見て取れます。
つまり、
予算委員会の開会拒否は、政府・与党の選挙対策と考えられるのです。その焦点が、7月の参院選、あるいは噂される夏の衆参同日選をにらんでいることは、疑いないでしょう。
国会は、いくつもの重要な役割を有していますが、特に重要なのは、首相の指名と議案(法案・予算案・条約等)の審議・採決の二つです。予算委員会は、この二つの役割ともに、大きな責任を有する委員会です。本論考では、主に前者を説明しましょう。
国会が首相を指名する権限を有することは、同時に、
首相を罷免する権限も有していることになります。それが、
内閣不信任決議です。首相は、決議の可決に対して、衆院を解散するという対抗の権限を有しますが、総選挙後に召集される国会の冒頭で、辞任(内閣総辞職)しなければなりません(憲法第70条)。内閣不信任決議がなされれば、遅かれ早かれ、首相は辞任しなければならないのです。
これは、
首相を指名した国会議員の多数派が、何らかの理由で態度を変え、首相を罷免することに賛成することを意味します。議員多数派の意思が変わらないのであれば、内閣不信任決議がなされることは、あり得ません。憲法と国会制度は、議員多数派の意思が変わることを前提にしています。
憲法と国会制度は、どのような仕組みで、首相指名から不信任決議に至るまで、議員の態度が変わりうると定めているのでしょうか。
憲法と国会制度が本来の仕組みとして定めているのは、
質問制度です。国政の様々な点について、議員の意思に基づき、内閣に所見を尋ね、回答を得る制度です。口頭でやり取りするものを口頭質問と呼び、文書でやり取りするものを文書質問と呼びます。後者は、国会で質問主意書と呼ばれています。
質問制度の特徴は、議員多数派の意思や政局と無関係に、定期的に実施されることです。例えば、イギリス議会では、開会中の月~木曜日、決まった時間に本会議場で「口頭質問」を実施しています。大臣が日替わりで登場し、議員の質問に答弁します。毎週水曜日は、首相答弁の日で、慣例で野党党首が質問に立ちます。フランスとドイツは週1回、開催しています。
質問制度によって、
内閣は、国会から常時、チェックされる状態に置かれます。とりわけ、口頭質問は、首相や大臣が自ら口頭で答弁しなければならないため、答弁の内容のみならず、その姿勢を通じて、閣僚としての資質がチェックされる機会となります。
つまり、憲法・国会制度は、首相指名と内閣不信任決議をつなぐ仕組みとして、質問制度を備え、それによって議員の姿勢が変わりうるとしているのです。首相指名と内閣不信任決議は、議院内閣制の要として中学校で学びますが、質問制度も同様に、議院内閣制の要を構成しているのです。
しかし、
日本の国会では、口頭質問が廃れてしまい、休眠状態になっています。ただ、国会法や衆参規則では残されていますので、なんら法令を改正せずに、実施することは可能です。