韓国講演で語った東電と国の放射能汚染水を巡るでっち上げ。コロラド博士、韓国をゆく

提案された「トリチウム水」処分方法と問題点

 国と東京電力は、「トリチウム水タスクフォース」なる組織を作り、「トリチウム水」の処分法について検討し、5つの処分方法を提示しましたが、これは典型的なヒノマルゲンパツPA(JVNPA)の手口であって、箸にも棒にもかからない、全く無意味な当て馬提案をぶつけることによって、本命と目論む案、この場合は海洋放出案しかないと印象づけ、中央突破を図ろうとするものでした。  本命の海洋放出案は、極端に費用が安く、期間も短く説明されていますが、公害防止、労働者被曝防止の当たり前の対策を行えば、費用は二桁程度あっと言う間に跳ね上がり、そもそもトリチウムの総量、濃度規制を行えば20年から50年はかかる可能性があります。  他の案は、技術的に未完成のものが多く、技術開発や実用化、環境アセスメントなどの準備期間だけで10年20年はあっと言う間に過ぎてしまい、結果、「トリチウム水」は溢れかえってしまうと言う時間を無視した案、公害防止を全然考慮していない案、小型タンク保管を上回る被曝労働に依拠した案、住民の被曝ドンとコイの公害まき散らし案、群発地震が起きるぞと言う案、施設の放射能汚染で維持・廃止措置が困難な案など、もうめちゃくちゃです。マジンガーZのように、超技術がいきなり実用化するなどと言うことはあり得ないのです。  これら案は、マンガを読みすぎの中学生の思いつき程度に過ぎず、実現可能性は皆無です。中二病が日本政府、東電とトリチウムタスクフォースなる御用集団の実態なのでしょう。市民と世界を愚弄する税金泥棒です。トリチウムタスクフォースの面々は、中学教育からやり直しましょう。  なお、「トリチウム水」からのトリチウム分離実用技術では、CANDU-A(加圧重水原子炉, PHWR)を多数擁するカナダで最も進んでいますが、処理能力が福島第一で必要とされるものより二桁ほど小さいために焼け石に水です。  当初の国、東京電力、NRAの説明通り、「トリチウム水」に含まれる放射性核種がトリチウムだけまたは、トリチウムと基準を十分に下回る他の核種であるならば、海洋の希釈能力を活用することを企図して、総量、濃度双方を厳しく制限した上で、20年程度の時間をかけて海洋放出処分することはそれなりに合理性を持ちました。実際、私も気は進まないが、市民、周辺国、環太平洋諸国の同意を取り付けた上で、第三者の査察団を常駐させて行うことはやむを得ないだろうと考えていました。  しかし、「トリチウム水」という説明、呼称そのものが大嘘だったのです。ALPS処理済み水にトリチウム以外の多種多様な放射性核種が有意な量存在している理由は、東京電力がALPSの浄化フィルターをケチって交換回数を減らし、結果としてALPSの浄化能力が試運転通り発揮されず、処理済み水にトリチウム以外の放射性核種が残留したとされています。

「確信犯」としか思えないでっち上げ

 この問題が発生したとき、ALPSは試験運転できわめて優秀であったが故に何でこのようなことが起きるのか、私は理解できませんでした。単にずるしていただけだったようです。  これは確信犯です。「ケチって火炎瓶」という言葉がSNSではやりましたが、こちらは「ケチって汚染水」です。もはやPublic Acceptance(PA社会的受容)どころではありません。国と東電は、市民と世界を欺してきたのです。そして、NRAはそれを阻止できませんでした。見方によればNRAも結託していたと見られかねません。  このことはきわめて深刻で、公害排出企業としての東京電力、規制監督者としてのNRAと国は、ヒノマルゲンパツPA(JVNPA)という手垢まみれの常套手段で市民を欺してきたことを意味し、信用は完全になくなったといえます。  現在NRAは、「トリチウム水」を「(ALPS)処理水」と言い換えを強調しています。  しかし、公害排出者、規制監督者が5年を超えて市民と世界に向けて嘘をつき続けてきたことは事実であり、もはや当事者能力があるとは言いがたい状況となっています。  おそらくNRC(合衆国原子力規制委員会)委員長であったヤツコ氏の言葉であったと記憶しますが、「原子力・核産業は規制の上に成り立つ産業」です。きわめて厳しい規制を厳格に守った上で初めて成立するという特異性を原子力産業は持ちます。  ところが日本では、「規制の虜」と言われるように、規制当局である「原子力安全保安院」が電力・原子力産業界と結託し、多数の御用学者(とくに日本土木学会と関連学会、放射線関連学会が著しい)を抱えることで規制を破壊し、結果として福島核災害を引き起こしました。それと全く同じ事が起きていたといえます。今日では中西発言が示すように経団連が露骨に原子力安全保安院への回帰を求める有様です*。 <*参照:「まずは法律からっていうのはやめましょう」!? 報じられない4・8経団連中西会長会見の問題発言>  ステイクホルダーたる東電、国そしてNRAがもはや信用するに値しないことをこの「トリチウム水」問題は示したのです。  勿論、NRAが初心に立ち返り真面目に規制監督者としての役割を果たさねば福島核災害の収束は不可能となります。また、「(ALPS)処理水」の増加は放置できません。大規模漏洩事故のリスクが増える一方ですし、労働者の被曝リスクも無視できません。核公害、労働者の人権問題としてこれは危急の課題なのです。  次回は、対案としての長期保管案からとなります。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』”東京電力「トリチウム水海洋放出問題」は何がまずいのか?”第二部・韓国講演編2 <取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado > まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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