炎上する「無職の専業主婦の年金半減案」報道。問題の本質は女性間の対立ではない

男性稼ぎ主型生活保障システムとは

 第3号被保険者制度は男性稼ぎ主型生活保障システム内の制度として捉える必要があります。生活保障システムとは、国家や社会が人々の生活を支える様々な制度(具体的には政府の税、社会保障、労働政策などから企業や家族、非営利団体の制度・慣行まで)の集合体のことです。  経済学者の大沢真理さんは、中でも企業と家族の果たす役割が大きい日本社会の生活保障のあり方を、男性稼ぎ主型と分類しています(※4)。そこでは政府が保障する生活の最低水準は低く抑えられ、保育サービスや教育、住宅などへの社会支出も基本的には低調です。(※4:大沢真理さんの著作はたくさんあるが、『いまこそ考えたい 生活保障のしくみ』(2010年、岩波書店)がブックレット形式で読みやすい。また、日本記者クラブでの講演の模様がインターネット上で公開されている)  家族を支える経済的資源は男性が企業に雇用されることによって得る賃金と企業福祉が主要なものとされ、家事、育児、介護は主に妻がフルタイムで担うこととされます。  第3号被保険者制度も、企業や官庁で働く人に扶養される配偶者のみに許されるという点で男性稼ぎ主型的です(制度上は女性に限られませんが、第3号被保険者の圧倒的多数は女性)(※5:厚生労働省年金局『平成28年公的年金加入状況等調査』2018年)。

日本型社会保障制度が貧困を増大させている

 人々の生活を支えるはずの生活保障システム、特に高所得世帯から低所得世帯への再分配を担うはずの税・社会保障制度が、日本においてはむしろ相対的貧困状態(以下、貧困と表記)にある人々の割合を高める方向に働くことがあります。(※6:日本のような先進国では貧困の基準を、肉体的な生存が困難になる絶対的なレベルではなく、その社会で許容できる最低限の生活レベルにおきる。このような貧困を相対的に捉える発想は1960年代から取られている。例えば経済企画庁編『国民所得倍増計画-付経済審議会答申』1963年 では「社会保障における最低生活は、国民が相互の一定限度の生活を保障しあうという社会連帯の国民感情や、一定の地域、一定の時点における生活習慣等をも考慮に入れて定められるべきであり、一般社会生活の発展に対応してゆく相対的なものである」とされている。なお、2009年より厚生労働省は国民生活基礎調査のデータを用いて相対的貧困率を発表しています。この場合の貧困の基準は、等価可処分所得、いわゆる手取り収入-賃金等の市場所得から税・社会保険料を引き、さらに社会保障現金給付を足したものを世帯人数の平方根で除した金額-の中央値の1/2の金額以下-2015年時点で約122万円-とされる)  現在日本政府は、世帯の可処分所得(いわゆる手取り収入)が単身世帯では約10万円以下、2人世帯では約14万円、3人世帯では約17万円、4人世帯では約20万円以下の場合、その世帯に属している個人が貧困状態にあると考えています。全人口のうち、貧困状態にある人の割合を貧困率と呼びますが、日本政府が公表する最新のデータでは13.9%です。日本に住む人々のうち、実に約7人に1人が貧困状態にあります。  政府の税・社会保障制度による再分配がどれだけうまく機能しているかは、税引き前の額面の収入を基に計算した貧困率(再分配前)と、手取り収入を基に計算した貧困率(再分配後)を比較することで把握できます。例えば、再分配前の貧困率が50%、再分配後の貧困率が25%だった場合、政府の税・社会保障制度を通じて、貧困状態にある人々が半分になったことになります。これは政府が、税引き前の収入から直接税と社会保険料を徴収し、さらに様々な現金給付をした結果です。この政府による再分配を通じて貧困が削減された割合を貧困削減率と呼びます(この場合、貧困削減率は50%です)。  そして、OECDが2009年に公表したデータでは、世帯主が労働年齢にある世帯の貧困削減率を比べると日本のそれはOECD内で下から2番目の8.2%でした(OECD平均47.5%)。さらに、世帯内の成人が全員働いている世帯(ひとり親世帯、共働き世帯、単身就労世帯)に限ると、貧困削減率はOECD最低、唯一マイナスになります(-7.9%)。(※7:大沢真理『生活保障システムのガバナンス―ジェンダーとお金の流れで読み解く』2014年、有斐閣)  つまり、これらの世帯においては、政府が税・社会保障制度を通じて再分配を行った方が、貧困である人々の割合が7.9%高くなっていたのです。  また、社会政策学者の阿部彩さんが1985年から2009年までの厚生労働省国民生活基礎調査のデータを分析したところ、18歳未満の子どものいる世帯では一貫して貧困削減率がマイナスでした。  2010年代以降、この傾向は弱まってはいますが、2015年時点でも0歳〜4歳においてはマイナスのままです(※8)。本来、人々の格差を小さくするはずの税・社会保障精度がうまく機能しないどころか、格差を広げるという目的とは逆の機能(逆機能)を果たしてしまっているのです。(※8:阿部彩『子どもの貧困II-解決策を考える』2014年、岩波書店、阿部彩「日本の相対的貧困率の動態-2012から2015年」科学研究費助成事業-科学研究費補助金/基盤研究B、『「貧困学」のフロンティアを構築する研究』報告書2014年)
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恵まれた立場の人ほど手厚い逆進性
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