メディアも気を付けなくてはいけない。ファクトチェックに忠誠を
このような状況において、気を付けなくてはいけないのは我々メディアだ。メディアには、ファクトチェックを忠実に行うことが求められる。特に精神障害者と報道の関係性は慎重に築き上げなければならない。
2018年6月9日夜に走行中の東海道新幹線車内にて、男女3人が刃物で襲われ、男性1人が死亡する事件が起きた。この事件に対し、毎日新聞(ウェブ版)は「容疑者自閉症? 『旅に出る』と1月自宅出る」と見出しをつけ、記事を配信した。
本文では、「小島容疑者は自閉症と診断され、昨年2~3月には岡崎市内の病院に入院していた」「伯父方では2階の部屋に引きこもってパソコンを触っていた」ことなどを伝えていた。
この記事の見出しには、「自閉症と社会不適応・犯罪を結びつける」「自閉症=危険という印象を与えかねない報道」といった批判が相次ぎ、一方では「単に犯人の『特徴』を挙げただけで過剰反応では」との声も寄せられ物議を醸していた。
これを受けて毎日新聞は、見出しの「容疑者は自閉症?」の文言と本文中の自閉症と診断され入院していたという部分を削除。同月11日には、Twitterで「新幹線殺傷の事件で、発達障害について不適切な記載をしていました。ツイートを削除しておわびします」と謝罪をした。
このように、精神障害や発達障害は、犯罪と深い関連性があるという誤ったイメージが報道によって作り上げられる危険がある。
2001年に起きた「大阪教育大学付属池田小学校事件」においても、報道の内容と各メディアの報道傾向が問題視された。実行犯が、精神科に通院していたこと、以前にも事件を複数回起こしていたこと、またその事件が心神耗弱状態を理由に不起訴処分になっていること等が報道され、各メディアは精神障害者が起こした事件として報道を行った。このような報道が相次いでなされると「精神障害者だから重大事件を引き起こす」ということを読者や視聴者に印象付けることになる。
「犯人は精神障害者なのでは」というデマに加え、現在Twitter上では、「犯人は無敵の人だ」といった言説が溢れている。2019年5月28日20時13分時点で、Twitterのトレンドにランクインしているほどだ。
しかし本稿執筆時点の5月28日22時の段階で、容疑者の素性は何も公開されておらず、この言説の根拠は乏しい。
無敵の人とは、主にインターネットで使われる言葉で、お金も社会的信用もなく、犯罪を犯して逮捕されても失うものがない人のことを指す。
2chの創始者ひろゆき氏が2008年6月30日の
ブログで書いたのが始まりだ。
無敵の人とは、社会的弱者とも捉えることができ、何も容疑者の情報が公開されていない中、犯罪行為を犯す人と無敵の人の定義に当てはまる人を短絡的に結びつけてはならない。該当する人への偏見の助長となり兼ねる危険な行為だ。
まだ何も情報が公開されていない状況だからこそ、「どうせ精神障害者だ。精神疾患だ。無敵の人だ」と決めつけ、憶測で作った情報を発信することは控えるべきである。
<取材・文/板垣聡旨>
学生時代から取材活動を行い、ライター歴は5年目に突入。新卒1年目でフリーランスのライターをしている24歳。ミレニアル世代の社会問題に興味を持ち、新興メディアからオールドメディアといった幅広い媒体に、記事の寄稿・取材協力を行っている。