昭和・平成と「外遊び」普及に尽力した主婦の活動が、令和の時代に問いかけるもの

AIの時代だからこそ、人間の本来的な能力を失わない“しかけ”を

矢郷さん

矢郷恵子さん

 昭和の頃、東京・世田谷で産声を上げた「冒険遊び場」は、いまや全国400を数える。同じ頃誕生した野外での保育・子育て活動も「森のようちえん」というネーミングを得て、各地で静かなブームとなっている。 「冒険遊び場」とは、木登り、焚火、泥遊びなど、子どもたちが自分でやりたいと思う「遊び」をつくることができる場所のことだ。  あらゆることがコンピュータによって自動化・情報化され、リアルなコミュニケーションが失われつつある今。まるでバランスを取るように、子どもに野外で思い切り遊ぶ体験をさせたい、コミュニティの仲間と助け合って野外で子育てしたい、と思う親が増え続けている。  そんな令和の状況を予言するかのように、昭和・平成を通じて40年以上一貫して、外遊びとコミュニティの意義を伝え続けた実践者がいたのをご存じだろうか。

きっかけは、区の広報の小さな呼びかけ記事

 1975(昭和50)年、東京・世田谷。まだスマホもSNSもない時代。ひとりの主婦が区の広報で呼びかけた。 「0歳の子どもがいます。遊ばせながらお母さんの仲間作りをしませんか」  呼びかけはやがて、母親たちが交代で野外保育をする自主保育「ひろば」の誕生に繋がり、同じ頃に始まった冒険遊び場「羽根木プレーパーク」が、その活動場所となった。  そして自主保育と冒険遊び場が全国に広がるとともに、区の広報で呼びかけた主婦、矢郷恵子さんはそのパイオニアとして、知る人ぞ知る存在となる。 「母は、未来を見通す感覚を持っていたように思います」と話すのは、自主保育「ひろば」で育った、矢郷さんのひとり娘の桃さん。 「母は、困っている人を放っておけない、また小さな気持ち、ささいな違和感を無視できない人でした」(桃さん)
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身近な人に話しかけることから社会は変わる
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