債務者は、無職の中年夫婦。それを支えていたのは父親である高齢者だった
高齢者の運転トラブル、逆走、自動車死傷事故といった事例が相次いで報告され、批判の矛先となっている。
この批判を「高齢者いじめ」として10~20代が引き起こす自動車事故の方が多いというデータを引き合いに出すものもいるが、経験不足を主原因とする若者の事故と機能低下を主原因とする高齢者の事故を同列に処理すべきではないのだろう。
これら高齢者の運転トラブルに気をもみ「高齢者から運転免許を剥奪せよ」と旗を振る気持ちもわからないではないが、少し冷静に立ち止まり、その掲げられた旗の裏側をペラリと捲ってみることも必要なのではないだろうか。
そこには“安心・安全と引き換えに失うもの”、“理不尽な自動車事故防止までのシンプルではない道のり”といった目を背けがちな情報が記されているのではないだろうか――。
首都圏ではありながらも一家の大黒柱が長年県内をターゲットとしてきた自営業のため、駅からははるか遠い住宅街。築25年ほど、日当たりの悪さが少々気にかかる建売住宅が本日の当該物件。
何かがぶつかり歪んだまま放置される柵をギシギシと押し開き、玄関の呼び鈴を押す。
応対してくれたのは一家の大黒柱である債務者。はつらつとはしているが、見るからに後期高齢者だ。
室内を債務者が案内してくれるのだが、そこには中学生くらいの男の子がついて回る。相当なおじいちゃん子なのか終始心配そうな表情を浮かべている。
この家に住むのは債務者とおじいちゃん子な孫、そしてその孫の両親である債務者息子夫婦という4人。
室内はどこも雑然と片付けが行き届いていない状況だが、債務者息子夫婦の住む部屋のみ、状況が異なっていた。この一室のみがゴミ屋敷化しており、そこで平然と40代なかばといった債務者息子夫婦は暮らしている。
「この後どうなんの?ホント最悪」
「これって、生活保護で有利になんないの?」
矢継ぎ早に自分たちの主張だけを押し付けられることには慣れているため、この後の流れを執行官が丁寧に説明し、生活保護申請については管轄が違うためわからないという点を告げると、債務者息子夫婦は興味を失ったのかテレビを付け始めた。
おじいちゃん子な孫の部屋は、“この家唯一の救い”と思えるほどに整頓されており、ヒーロー物フィギュアやポスターが飾られていた。
庭の調査のため外に出ると、債務者がボソッとこぼす。
「あれ見たでしょう。息子夫婦。アイツら意地でも働かないって言うんですよ。私もね、こんな年まで働いて子育てしてローン返さなきゃいけないなんて思っても見なかった」