特定進路を強制、幼少期に入信させる……。見過ごされる「教育虐待」の実態とは
たとえば、宗教団体の熱心な信者である親が、子どもを物心つく前から入信させ、子どもどうしの社会で浮いてしまう存在にさせることがある。ある子どもは、親の信心通りに「人を好きになってはいけない」と教えられた。小学5年生になる頃から、周囲の児童や教師から「もっとみんなと仲良くしろよ」と言われたり、「おまえの家は宗教だろ」といじめられた。家に帰れば、多額のお布施でお金がなく、カップラーメンを兄弟で分け合って食べる暮らしを強いられていた。家にも学校にも居場所を失った彼は、中学校の入学式以来、学校に行けなくなり、10代後半で家出した。
他にも、親が子どもに極左や極右のような政治思想を刷り込んだり、やくざや企業舎弟の集団に属している親が日常的に反社会的な人間で子どもの生育環境を固めることがある。そんな状況で育つ子どもは、一般常識とカルト的な思想の間に宙づりにされ、学校と家庭のどちらにも安心できる居場所を失ってしまう。
このような虐待は、戦時中に相手国を占領した国軍が自国の言語や文化を軍事力で強制するのと同じ構造をもつため、筆者は「文化的虐待」と呼んでいる。
文化的虐待は、親自身が障害者や精神病者、超高学歴や超低学歴である場合でも起こりうる。それぞれの属性が悪いのではない。子どもにとって、自分の言い分を一方的に否定する親心と、どんな親心でも法的に正当化できる親権は、支配的な権力になりかねない恐ろしいものなのだ。
名づけられていない虐待のタイプは、他にも無数にある。今日、親族や仲の良い友人が近所におらず、配偶者の協力も得られないまま、したくもない虐待を孤独の中で続けてしまっている親は少なからずいる。1人か2人の親に「あなたの子でしょ」と子育ての全責任を押しつける親権制度を根本的に改革しない限り、子育てを頼り合える社会の実現は遠く、子どもが虐待される悲劇はいつまでも続くだろう。
<文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。
1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。
その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。
著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。