日本政府はなぜ「ロヒンギャ」と呼ばないのか。欧米各国との「ズレ」の根源

MYANMAR-MEDIA-JUSTICE

ワ・ロン氏(左)とチョー・ソウ・ウー氏 (Photo by ANN WANG / POOL / AFP=時事)

 一人は親指を立て、もう一人は手を振り、満面の笑みを浮かべている男性2人……。ミャンマーでの500日以上の収監を経て、今月大統領の恩赦を受けた、ロイター通信の記者ワ・ロン氏とチョー・ソウ・ウー氏です。両氏はミャンマーの治安部隊によるイスラム教徒ロヒンギャの迫害を取材中に逮捕され、国家機密法違反罪で禁固7年の実刑判決を受けていました。

希望の光となった記者の釈放

 各国政府やジャーナリスト、NGOなどは2人の釈放を歓迎しました。ミャンマー政府による表現や言論の自由の弾圧という根本的な問題は依然として未解決であり、また、現在も73万人以上のロヒンギャ難民が劣悪な避難生活を強いられています。それらの問題を注視してきた人々にとって、このニュースは小さいながらも希望の光となったはずです。  一方、この際に不都合な真実も顔を見せました。  河野太郎外務大臣は2人の釈放を歓迎し、外務省も歓迎の声明を発表しました。同省は「我が国は、ミャンマーにおける民主的な国造りのさらなる進展を期待します」とつづりました。  しかし、その声明のなかには、国連や欧米各国も利用している「ロヒンギャ」という言葉が見当たらないのです。(参照:外務省HP

河野大臣はミャンマー政府・軍を擁護

 なぜなら、日本政府はイスラム教徒のロヒンギャ民族を「ロヒンギャ」と呼ばず、「ラカイン州のイスラム教徒」と呼んでいるからです。河野大臣は、「ミャンマー政府はロヒンギャという部族は存在しない、彼らは国境を超えてきて住み着いたベンガルのイスラム教徒だと主張しています」として、「この問題になるべく中立的な立場で関与するため」、「ロヒンギャ」という言葉を使わない姿勢を貫いています。  また、河野大臣は「欧米各国は、ともすればミャンマー政府や軍を加害者として攻めがち」と批判しています。(参照:河野太郎公式サイト)  つまり、日本政府は、ロヒンギャの存在自体を否定するミャンマー政府の見解に実質上同調しつつ、国連が「虐殺・性暴力・広範な放火などジェノサイドおよび人道に対する罪に当たる」と認定しているミャンマー軍の愚行を批判する「欧米各国」に対してブレーキをかけようとしているのです。(参照:BBC
次のページ
国際社会からずれた日本の「中立性」
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会