研究テーマは「欧米とは異なる北朝鮮の恋愛スタイルについて」
夢にまで見た朝鮮での生活を謳歌しているというアレック氏だが、高ぶるあまり、時には調子に乗りすぎてしまうこともそうだ。
街を自由に出歩くことも許されているため、一度平壌と他地域の境まで遠出をした際は、学生証を持っていなかったため留置所に入れられてしまった。だが、そこでは北朝鮮兵士の意外な姿に触れた。
「友達をタクシーで待たせている状態で捕まってしまったんです。ドアの小窓から目だけ出してこちらを覗いている人民軍兵士に向かって、必死に謝罪して事情を訴え続けたのが記憶にあります。しかし彼らは終始、親切でした。小窓から目だけ出した状態で色々と気を遣ってくれて……(笑)。僕の朝鮮語を褒めてくれて、『勉強頑張れよ』だなんて。最後は向こうも笑っちゃっていましたね」
また百貨店で、人民しか買えない部類の児童用オモチャを売ってくれと直談判し拒否されるも、なぜ自分がそれを購入しなければならないか熱弁をふるい、特別に購入を許されたというエピソードも。
肝心の授業は、基本的に教授とのマンツーマンスタイルで行われる。現在は、文芸作品からみる北朝鮮の恋愛スタイルをテーマに卒論を執筆中で、将来的には欧米初の朝鮮文学研究者になることが目標だと話す。
「朝鮮の恋愛スタイルはもちろん、欧米とは異なります。あくまで小説に描かれているパターンが研究対象ですが、街に出て実際の恋愛模様の観察もしてみたいですね」
金大で使用している、アレック氏のテキストとノート
北朝鮮の文学といえば当然他国にはなじみがなく、思想性が先行するものが多いが、中には1987年に出版され韓国でもベストセラーとなった「青春頌歌」など娯楽性も含む作品も珍しくない。アレック氏はそうした隠れた要素を一つ一つ拾って咀嚼したいと話す。
日本のアニメ好きのクラスメートと休暇にアキバ訪問も
金大は現在、残念ながら日本人学生は受け入れていないが、彼の同級生には日本のアニメ好きの韓国系欧米人もおり、寮の部屋には当該作品のポスターも。休暇の際はともに秋葉原を訪れ、「オタ活」をした後に北朝鮮に戻ることもある。外国人には開放的な北朝鮮の一面を見て取れる。
実際に、日朝政府間交渉が停滞し、日本政府が渡航自粛を求めているにもかかわらず、日本人の訪朝者がここ数年で劇的に増えている。北朝鮮政府も観光誘致に力を入れており、各地に観光特区を設置・拡大し国際社会に対し開放的なイメージをアピールしている。
北朝鮮といえばネガティブイメージばかりが先行されるが、どの国も、暗部だけが実像ではない。アレック氏らのような外国人は、北朝鮮と他国間の民間交流のニーズを反映しているといえる。
実際にアレック氏も朝鮮専門旅行会社「
TONGIL TOURS」を主宰し、日本人の旅行者の仲介も取り扱っている。6月からは北朝鮮での短期語学留学ツアーも開催予定だ。
また彼は金大での生活ぶりを、ブログでも発信している。日朝両政府関係に進展がない中、彼の発信する情報には一抹の価値があるといえよう。
<取材・文/HBO編集部>