東京都消費生活センターが「マクロビ推奨」の食育講座炎上で中止。しかし、都に反省の色なし

中止された都の食育講座 「 『ゆるマクロビ』でココロとカラダの調子を整えよう!」のチラシ

東京都多摩消費生活センターが「炎上」。その理由は?

 東京都多摩消費生活センターが「食育講座」として、科学的根拠がないと指摘されている健康法「マクロビオテック」の講座を企画。批判を浴びてTwitter等で炎上し、4月26日に中止を発表した。都はTwitterやウェブサイトで、「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」という趣旨を挙げ、「その趣旨が十分に伝わらないご案内となっておりました」とした。しかし講座の告知にはそもそもそのような趣旨はなく、〈テーマは「ゆるマクロビ」です〉などと書かれていた。このことから、中止発表後もなお批判が続いている。
削除された告知ツイート

削除された告知のツイート

消費者保護機関が「マクロビ」推奨する問題点

 都の公式アカウント「東京都消費生活行政」(@tocho_shouhi)がマクロビオテックの講座開催を告知したのは3月下旬。多摩消費生活センターでの「5月の食育講座」として、5月29・30日の2日間〈「ゆるマクロビ」でココロとカラダの調子を整えよう〉(無料)を開催するとした。マクロビオテックについて学び、それに基づいた菓子を作るという内容で、講師は『お弁当からはじめるマクロビオティック』『マクロビオティックの蒸しパウンドケーキ&焼きパウンドケーキ』などの著書がある菓子・料理研究家の今井洋子氏だ。  マクロビオテックとは、桜沢如一(故人)が提唱した「玄米菜食」の思想や健康法を指す。食材を「陰」と「陽」に区別して捉え、「中庸」であることを理想とする。例えば肉類は強い「陽」であるとして、動物性の食材を推奨しない。「陰」である砂糖は体を冷やすなどと捉え、これも控えることが望ましいとされる。  表向き、マクロビオテック信奉者たちは「バランスを保つことが重要なのであり、動物性食品を禁止しているわけではない」かのように語るケースが多い。しかし「肉・乳製品・卵・砂糖はよくない」かのような教えである以上、当然、熱心な信奉者たちの食事は偏りがちになる。科学的根拠がないというだけではなく、本来必要な栄養バランスを崩す実害も指摘されている。  筆者自身、かなり以前になるが「親がマクロビ信奉者だった」という「マクロビ2世」と会ったことがある。幼少から動物性の食品なしで育てられ、病気になると敢えて玄米ばかり食べさせられた。その人は「ペットのネコが病気になった際も、親から玄米ばかり食べさせられたまま死んだ」と語っていた。  こうした側面への批判は以前からある。そのためか、昨今では今回の講師の今井洋子氏のように「ゆるマクロビ」などというキャッチフレーズで雰囲気的に敷居を下げて信奉者を増やそうとする傾向が強まっている。  しかし、ゆるかろうが何だろうが科学的根拠が疑問視されるものを東京都の、しかもよりによって消費生活センターが「食育」などと称して推奨するのは、さすがに批判を浴びて当然だろう。  4月下旬にTwitter上でこの告知が批判を浴びた。Twitterを見たところ、どうやら都に直接電話を入れて指摘した人もいたようだ。都は4月25日に講座の中止を発表した。  ところが、だ。都がウェブサイトで発表した中止の告知は、こんな文面だった。 〈5月29日(水)、30日(木)に開催を予定しておりました多摩消費生活センターの食育講座は、地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座でしたが、その趣旨が十分に伝わらないご案内となっておりました。誠に勝手ながら、中止とさせていただきます。既に申し込まれた方、また、ご検討中の皆様方には、深くお詫び申し上げます。〉  本記事冒頭に載せたTwitterでの「食育講座」告知にも、下の画像にある都のサイト上での告知にも、最初から「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」などという趣旨は一言も書かれていない。ただ「マクロビ推し」をしているだけ。
東京都ウェブサイト告知のキャッシュ

東京都ウェブサイト告知のキャッシュ

 実際、都が批判された理由もそこにある。「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」であればマクロビオテックを推奨していいということになるわけでもない。  講座案内のチラシ画像には、卵や乳製品に大きくバツ印をつけたイラストまで掲載していた。卵や乳製品を否定することが「地産地消の推進、食品ロスの削減」であるはずがない。卵にしろ牛乳にしろ、国産品・地元産品はいくらでもある。それを否定することのどこが「地産地消の推進」なのか。  マクロビオテックを推奨したことについて何ら反省せず、自分たちが当初行った告知の内容や外部からの批判の趣旨など全てを誤魔化して、「中止」することで済ませようとしているように見える。だとしたら市民への背信行為以外の何物でもない。
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繰り返されてきた消費者行政のミス
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