東京都消費生活センターが「マクロビ推奨」の食育講座炎上で中止。しかし、都に反省の色なし

繰り返されてきた消費者行政のミス

 都の中止告知に対しても、Twitter上では批判の声が挙がっている。当然だ。  消費者の利益を守るはずの行政がそれに逆行する情報を流すという事例は、過去にもあった。今回の食育講座が中止になれば済む問題ではなく、特に消費者問題や健康に関わる行政自身のリテラシーが見直される必要がある。都の欺瞞的姿勢は、この点にも逆行している。  Twitter上で、消費生活相談員のyuri氏(@syoyuri)はこう指摘している。 〈「消費者庁のキッチン」で「酵素ジュース」の紹介をしてしまい炎上したことから多摩消費生活センターが学んでいないことは残念です・・・これでは「白砂糖や卵、乳製品」が問題のある食品だと偽り商売する、マルチ商法などの悪質業者の片棒を担ぐことになりかねないですよ。〉(yuri氏のツイートより)  マクロビオテックとは関係がないが、2015年に消費者庁がレシピサイト「クックパッド」内の「消費者庁のキッチン」に、果物を手作業で発酵させる「発酵ジュース」を掲載した問題を指している。食中毒の危険性が指摘されすぐに削除。消費者庁は「食品衛生上の問題が生じる恐れがあるものがあった」と声明を発表した。(参照:「ITmedia news」)  yuri氏は、こうも指摘している。 〈多摩消費生活センターの「ゆるマクロビ」 #食育講座 が炎上していますが、徳島県消費生活センターなんか、比嘉氏のEM講演会を開催(150人以上が熱心に受講)なんてやってたんですよ・・・〉(yuri氏のツイートより)  これは2014年に徳島県のつるぎ町消費者協会が「EM菌」提唱者である比嘉照夫氏の講演会を開催した件。その様子をNPO法人徳島県消費者協会が機関誌で報告した。同NPO法人は県の徳島県消費者情報センターの委託業務受託事業者である。 「EM菌」は比嘉氏が開発したとされる酵母や乳酸菌等の菌の混合体で、河川などの水質浄化、放射性物質の除去、人間関係向上、交通事故対策など、何にでも効くとされる万能菌。もちろん、そんなものに科学的根拠が認められるはずもない。  しかし全国では、河川やプール等の水質浄化のための「EM団子投入」が行政ぐるみで行われているケースもある。EM団子は、泥団子にEM菌を染み込ませて発酵させたもの。菌糸にまみれて真っ白になった泥団子だ。  徳島県内でも公立の小学校が生徒たちを動員して、このEM団子投入活動を実践している。一方で、自治体によっては効果を否定あるいは疑問視する調査結果を公表しているケースもあれば、EM関連事業から撤退した自治体もある。

講座中止だけでは解決しない

 今回のマクロビオテック講座について、前述の通り都は事実上「批判を浴びたので問題を有耶無耶にして中止ということで」という姿勢。マクロビオテックを推奨する姿勢を撤回していない。  消費者行政の仕事は、単に問題のある商品や業者についてのネガティブな情報を発信することばかりではない。「暮らしに役立つ」ポジティブな情報も、啓発事業の一環なのだろう。そしてニセ科学は、そういったポジティブな情報の中にこそ紛れ込んでくる。「ゆるマクロビ」で「お菓子作り」という、ふんわりとした前向きなキャッチフレーズは、まさにその象徴だ。  これに行政自身が翻弄されてしまっては、消費者の利益に寄与することなどできない。都には、講座を中止にしてお茶を濁すのではなく、担当者のリテラシーについて再確認や再教育を行い再発防止に努めてもらいたい。それがなければ、同じことがまた繰り返される。 <取材・文・写真/藤倉善郎(やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:@daily_cult3> ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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