男性も女性も出世が全てじゃない。求められる真の「働き方の多様化」

 大手日系企業で働いていた私は、年に一度、人事部にキャリア申告書を提出していた。キャリア申告書とは、自身のキャリアビジョンを記し、異動希望の有無や内容、また、身上面の変化、勤務希望地等を記載するものだ。  この「勤務希望地」は、「どこでもよい」にマルをしなければならない、という暗黙の了解がある。全国転勤の可能性ありの職制で就職したからには、勤務地の希望すら出せない。希望を出そうものなら、「やる気がないのか」「出世する気がないのか」と思われてしまうのではないかという疑念がわく。就職面接で「私服でお越しください」と案内メールに書かれていても、リクルートスーツを着ていくようなものだった。

出世を望むことは、「当然のこと」ではなくなった

 同様のことは、社内の昇進試験でも見受けられる。昇進試験を受けたくない、つまり、今より上の役職には就きたくない、という気持ちを抱くビジネスパーソンは少なくない。昨今の「働き方改革」の推進によって、いわゆる中間管理職に業務のシワ寄せがいっていることが多いからだ。  働き方改革の本質を理解したうえで「業務量を減らす」「無駄な仕事はしない」ということができている会社組織はそう多くはない。また、クライアントビジネスを行う企業や下請け業務を行う企業にとっては、クライアントの理解なくしては、根本的な仕事量の削減・見直しは不可能であろう。それにもかかわらず、長時間労働を削減しようという風潮が強くなり、特に若手社員には残業させづらくなっている。  そのため、中間管理職層が若手社員のやり切れない業務をこなし、管理職層・経営層やクライアントの変わらない要求水準に応えなければならない。会社での勤務時間制限が厳しくなっている今、「持ち帰り残業」が増えているのが現状であろう。私が勤務していた大手日系企業でも囁かれていた「課長にはなりたくないよなぁ」「あんなに働かされるなら、今の給料のままでいいわ」という若手社員の声は、管理職層には、まるで届いていなかった。

「働くこと」に対する価値観の変化

 出世して、プライベートの時間がなくなるくらいだったら、今の給料のままでいいから穏やかに暮らしたい。多くを望まないから、仕事で心身を崩すようなことは避けたい。家族や趣味の時間を大切にしたい。本業だけでなく、趣味を仕事にする等、副業にもチャレンジしたい。  がむしゃらに働くことや出世することを美徳とする旧来の働き方を目にしながらも、「こうはなりたくない」という気持ちが芽生え、個々の「働くこと」に対する価値観が変化し始めている。これは、平成時代における大きな特徴であると考える。インターネットによって、他社や他業界、外資系企業、ひいては海外における多様な働き方まで、簡単に情報を入手できるようになったことも、このような価値観の変化が生まれたきっかけでもあると感じる。
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