では、なぜスペインからわざわざ警察官をニューヨークにまで派遣してポデーモスの設立資金の出どころを調査する必要があったのかという疑問が湧く。彼らを派遣することを決めたのは当時のスペイン内務相フォルヘ・フェルナンデス・ディアスであった。派遣の理由は、当時の政治情勢から2016年6月の総選挙でポデーモスが社会労働党を抜いて野党第一党になる可能性が出て来ていたからであった。ベネズエラのボリバル革命を推進しようとするポピュリズム政党が野党第一党になると国民党の選挙後の政権運営が非常に難しくなると同内務相は判断したようである。
そこで国家警察が掴んでいた716万ユーロを送金したと証明する書類にある署名がチャベスとイセアの正真正銘のものあるかを確かめにニューヨークに赴いたのであった。そうであれば、それを裏からマスコミにその情報を流してポデーモスへの国民からの支持を減少させようと図ったのである。
録音された内容からイセアは、当初その証拠書類の署名を彼本人のものか2016年4月の最初の会見では避けた。しかし、彼の家族がカラカスに在住してマドゥロ政権から抑圧されていることを懸念しているイセアに、警官は家族をアルゼンチン経由でスペインに亡命させてそれ以後偽名にして身元を分からないようにするということをイセアに提案するのであった。フェルナンデス・ディアス内務相もそれを了解しており、彼からラホイ首相にもそれが伝えられていると言及したのであった。
最初の会見からひと月経過した5月の2回目の会見でイセアは証拠書類にある彼の署名とチャベスの署名が正真正銘のものであると実証したのであった。また、今年4月4日のテレビ番組『Al Rojo Vivo』でのインタビューでもイセアはそれを実証したのであった。(参照:「
El Confidencial」、「
Moncloa.com」)
当の2016年の選挙結果は国民党の勝利であったが、野党の社会労働党の540万票(85議席)に対し、ポデーモスは連携政党を加えて500万票(71議席)を獲得するという僅差となったのであった。(参照:「
El Pais」)
国民党は137議席で過半数の176議席からは程遠い議席数となったが政権を維持することができた。しかし、そのあとこの選挙結果が昨年の内閣不信任案を可決させて社会労働党のサンチェス党首が首相になる要因を作った。勿論、この内閣不信任案にポデーモスは賛成したのが政権交代の主因となった。
しかし、4月28日の総選挙でポデーモスは71あった議席を29失い、42議席となった。逆に、極右のVOXが初の議席獲得となり大きく躍進するという結果になった。
この背景には、本記事で報じた事実と、反体制主義で社会で恵まれない人たちの味方を政策を掲げて躍進したにもかかわらず、創設者の一人で委員長のパブロ・イグレシアスは1年程前に富裕者が住んでいる別荘地に高級住宅を購入したことが明らかになったことなども少なからず影を落としているだろう。(参照:「
The Guardian」)
彼が高級住宅を購入した時に離党した議員も僅かだがいた。しかし、このとき、多くの議員は彼の行為に内心反対しながらも議席欲しさに黙っているという方を選んだようだ。しかし、議席を減らし閣外協力をしていた社会労働党との連立も過半数を切る結果となった今、同党の行方に暗雲が立ち込めていることは想像に難くない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身