イラスト/いらすとや
先日、『
やる気なし英雄譚』などで知られる
津田彷徨氏の『
なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?』という記事が一部で話題になった。
同作品は、MFブックスより書籍化されている。「
小説家になろう」で掲載されている同作品の文字数は約114万字。実際にサイトを利用して書いている人の記事なので説得力がある。
ちなみに小説だと、だいたい10万字で薄い文庫本1冊分程度の分量がある。約114万字ということは文庫本10冊程度の量になる。
少し計算してみよう。400字詰め原稿用紙300枚にびっしり文字を書くと12万字。小説の新人賞の応募規定が、だいたい300枚以上~450枚程度だ。それぐらいあれば本1冊分に足りる。10万字というのは、本の分量の目安として分かりやすいので覚えておくとよいだろう。
さて、「
小説家になろう」には、私も思い入れがある。松本清張賞の最終候補に2年連続残っていた頃、私も「小説家になろう」で120万字強の作品を書いていた。『
部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ』という1話完結、連作短編のコメディ作品だ。
その時期私は、同作をほぼ毎日書いてアップしていた。そして季節に合わせて話を作り、クリスマスや正月など、リアルタイムの行事に連動させていた。同作品は、後に
カクヨムにも転載した。
一般文芸の新人賞に真面目な作品を送りながら、ネット小説でライトな作品も執筆する。小説投稿サイトは若者向けの場所と思われがちだが、高い年齢層の人間も多くいる。また、長年小説を書いている人や、プロ作家、セミプロ作家も多数いる。
「小説家になろう」は、日本最大級の小説投稿サイトだ。Similar Webにおける
日本のウェブサイトランキングでは、記事執筆時点で
21位となっている。ワールドワイドのグローバルランクでも208位だ。Similar Webの分析によると、1ヶ月あたりの合計本問数は16億、平均滞在時間は29分となっている。
同サイトには圧倒的な訪問者の数がある。パイが大きいということは様々な人がいるということだ。多くの読者がいるということは、「読まれる」機会を求めて、色々な背景を持つ書き手が集まってくるということだ。
私が小説投稿サイトに小説を書き始めたのはフィードバックを求めてだった。出版社が主催する一般文芸の新人賞に送っても、最終候補に残らなければ選評すらもらえない。賞によっては、最終候補に残っても「落ちました」の電話だけで終わる。過去に、KADOKAWAの日本ホラー小説大賞で2回最終候補に残ったが、電話連絡だけでフィードバックはなかった。
ライトノベルの新人賞はもう少しましで、全ての応募者に選評が付くものが多い。しかしネット小説なら、もっと簡単に反応が得られる。書いて公開すれば感想をもらえる。毎日公開すれば毎日フィードバックが得られる。そうなると、新人賞と小説投稿サイト、どちらがPDCAを多く回せるかという話になる。
私は一時期、小説投稿サイトを「精神と時の部屋」(ドラゴンボールに登場する亜空間の修行場)と呼んでいた。短時間で、待ち時間ほぼゼロで、どんどん実験ができるからだ。
ネット時代になり、イラストやマンガなど、フィードバックを短時間で得ることで若手が急成長する様子が見られるようになった。小説も、そうしたサイクルに入っている。しかし、そうした実情は利用者以外には知られていない。
こういった話は、自身の体験を織り込みながら、拙作小説『
#電書ハック』にも書いた。