一方で、実際に今回リニューアルを行った両店へと足を運ぶと、新たな課題も浮かび上がる。
オープニングセール中の両店では、ともに中高年を中心に縮小されたビジネスウェアのフロアへの来店客が多く、拡大されたカジュアルウェアの売場と比較しても混雑していたのだ。
まだまだ顧客にとっては「メンズ百貨店=オトナがスーツを買いに行くところ」というイメージが強く、今回の「脱ビジネスウェア依存」はまさに博打のような改装であったことが伺い知れる一方で、両店が取り込みたいであろう
20~30代の若者に対しての「カジュアル強化」についてはアピール不足であると感じられた。
阪急メンズ東京。1階・写真右の区画は4月現在まだ改装中であった
そうしたなか、阪急メンズ東京ではしっかりと若者の「来店導線」を築いている店舗があった。何を隠そう、それこそがアダルトグッズ店
「TENGA STORE TOKYO」だ。
「TENGA STORE TOKYO」が立地するのは6階で、その隣には「ヒステリックグラマー」や「オニツカタイガー」など少し有名ブランド店が出店する場所。先述したコンドーム専門店「コンドマニア」も同じフロアにある。
もちろん
百貨店にTENGAが出店するのは史上初のことだが、店舗はアダルトショップには見えないアメリカンな内装が特徴で入りやすい雰囲気。面積は狭いもののTENGAのみならずTENGAに因んだアパレルや雑貨などが所狭しと陳列されている。
「百貨店にTENGA」と話題をさらった同店は一見して「イロモノ」と思われるが、他テナントよりもメディアで取り上げられる機会が非常に多く、SNSでの拡散も相まって
「生まれ変わった阪急メンズ」の象徴的存在となりつつある。
取材をおこなったところ、来店客の多くが報道やネットで見て興味本位で「TENGA STORE」を訪れたというが、同店がある高層エリアには若者向けの尖ったアパレルやヴィンテージ、中古レコード店などが出店しているため「TENGA STORE」を訪れたカップルが他店舗への回遊をしている様子もみられた。
最も、今回「TENGA STORE」が混雑していた要因は報道やSNSによるデモンストレーション効果によるものであることは言うまでもなく、今後も同店が継続して賑わいを見せ、高層階におけるマグネットの働きを果たしていけるかどうかは未知数だ。しかし果たして、阪急にとってこうした
「TENGAの吸引力」は「想定内」だったのであろうか。
阪急メンズ東京にある「TENGA STORE TOKYO」。レンガ調のアメリカンな内装が特徴だ。店員氏にことわれば看板の「巨大TENGA」と記念撮影することも可能だという。来店の際にはぜひ
2つのメンズ百貨店が挑戦する「脱・ビジネスウェア」。
果たして今回の改装が吉と出るか凶と出るか――両店の売上高発表に業界全体の注目が集まっている。
無論、両店にとっての一番大きな課題は「若者が高感度な高級カジュアルファッションを買うお金がない」ことなのであろうが……。
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
@toshouken」