戦中、日本企業のために中国人・韓国人労働者達に強制労働に動員されることが相次いだ。花岡平和記念館にて筆者撮影
第2次世界大戦中に朝鮮半島から動員され、日本本土の工場などで過酷な労働環境で働かされたという、いわゆる徴用工問題。昨年10月、韓国の最高裁判所にあたる「大法院」は、元徴用工の人々の主張を認め、新日鉄住金に損害賠償を支払うことを命じる判決を言い渡した。
この判決に、安倍政権は強く反発。日本の各メディアも一斉に韓国側を批判するという、ある種の集団ヒステリー状態となっている。こうした日本での反応の背景には、ナショナリズムだけでなく、国際法や人権への無理解があるのだろう。
4月20日、日本弁護士連合会が主催したシンポジウムで基調講演を行った山本晴太弁護士(日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員)は「徴用工問題は解決済み」とする日本側の主張の問題点を指摘した。
端的に言えば、徴用工問題を巡る日本側の主張の問題は以下の点であろう。
●日本側の主張「日韓請求権協定で解決済みの徴用工問題を韓国側が蒸し返した」
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●同協定で「解決済」とされて放棄されたのは、国家対国家の「外交保護権」であることは、日本側も国会質疑で認めている。被害者である元徴用工の、加害者である日本企業に対する「個人の請求権」は現在も有効。
●日本側の主張「『個人の請求権』は消滅していないが、これで訴えても救済は拒否される」
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●この主張の元となっている最高裁の判断(2007年4月27日)は根拠に乏しい。また同判決も、「個人の請求権」を完全否定したわけではなく、加害者側の「自発的対応」を促すものだった。韓国の大法院は「個人の請求権」と「裁判による権利行使」を認めている。
●日本側の主張「韓国側の主張は国際法上あり得ない」
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●「裁判による権利行使」を認めないということの方が、むしろ国際法上あり得ない。
日弁連が主催したシンポジウムで講演する山本晴太弁護士
以下、順に解説していこう。徴用工裁判での韓国・大法院の判決に、「解決済みの問題を蒸し返した」「ちゃぶ台返し」「国際法上ありえない判断」など日本の政府関係者やメディアは一様に猛反発した。
徴用工問題についての安倍政権の見解は、「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決している」というもの。だが、これはあくまで
国家の権利である「外交保護権」のこと。
山本弁護士は
「日韓請求権協定によって放棄されたのは『外交保護権』であって、個人の請求権は消滅していません」と指摘する。「外交保護権」とは、外国によって自国民の身体・財産が侵害された場合、その侵害を自国に対する侵害として、
国家が相手国の国際法上の責任を追及すること。
これに対し「個人の請求権」とは、
被害者が加害者を直接、裁判等で責任追及するもの。実際、日韓請求権協定が締結された当時の
政府刊行物『時の法令』別冊やその後の国会質疑(1991年8月27年柳井俊二・外務省条約局長)などでも「放棄されたのは『外交保護権』」、「『個人の請求権』は消滅していない」とされている。
最近でも河野太郎外務大臣及び、外務省の三上正裕国際法局長が同様に答弁している(2018年11月14日衆院外務委員会)。