photo by Guillaume Paumier, CC-BY.3.0
楽天・三木谷氏が展開するビジネスは我々に何をもたらすのか?
5G時代の到来を前に、第4の携帯キャリアとして携帯電話事業への参入を決めた楽天の三木谷浩史会長兼社長が、ここ最近活発にメディアで発言をしている。
楽天参入によって、携帯電話サービスの革新に期待する声もあるが、自ら規制改革を推し進め、新たな市場を創出し、いち早く参入するという三木谷氏のビジネス手法には批判も少なくない。例えば、2013年に安倍政権の産業競争力会議の民間議員に就任し、ネット販売解禁を推進した事例や、竹中平蔵氏とともに推進したライドシェア解禁でも、利益誘導だという疑いを持たれている。
『月刊日本 5月号』では、ビジネスありきの性急な規制改革を進め、我田引水のビジネスを仕掛ける三木谷氏の手法を検証すべく、第三特集として「楽天・三木谷浩史の光と影」を組んでいる。今回はその特集記事から、ノンフィクション作家の森功氏へのインタビューを転載したい。
──森さんは、2014年に三木谷氏本人にインタビューし、医薬品のネット販売解禁をめぐる舞台裏について書いています(『文藝春秋』2014年5月号)。
森功氏(以下、森):第二次安倍政権発足直後に発足した産業競争力会議の議員に就任した三木谷氏は、医薬品のネット販売解禁を声高に主張しました。三木谷氏は、医薬品ネット販売を手掛ける「ケンコーコム」を傘下に収め、医薬品ネット販売事業の拡大を狙っていたのです。こうした三木谷氏の言動が、我田引水だという批判を浴びたのも当然です。
三木谷氏を支えてきたウシオ電機会長の牛尾治朗氏でさえ、「産業競争力会議に入っている、武田薬品工業会長の長谷川閑史さんは医療のことはやらない。三木谷君も、気をつけないといけない」と語っていました。
これは、
レントシーカーとして批判を浴びてきた竹中平蔵氏に通ずるものがあります。
例えば、竹中氏は2013年に産業競争力会議議員として「雇用調整助成金を減らして、転職を促すための労働移動支援助成金を一気に増やすべきだ」と主張し、実際に翌年度に労働移動支援助成金は150倍に拡大しました。それで儲けたのは、パソナの再就職支援会社です。
医薬品ネット販売解禁を強硬に主張した三木谷氏も、竹中氏と同様、利益誘導の疑いを持たれました。
2013年に、医薬品のネット販売は条件つきで解禁されました。同年11月、厚労省は、解熱鎮痛剤のロキソニンS、アレルギー用薬のコンタック鼻炎スプレーなど比較的リスクの高い23品目の販売を制限、劇薬5品目を禁止し、残りを解禁したのです。
23品目の大半は医薬品から一般薬になったばかりの薬なので、原則3年をかけて安全性を確認した上で、ネット販売を認めることになりました。いずれにせよ、一般医薬品の99.8%について、ネット販売が認められることになったのです。
規制緩和によって利益を追求したい企業家と、新たな成長戦略を宣伝したい政治家のもたれ合いの中で、なし崩し的に規制が撤廃されることは問題です。本来、それに歯止めをかけるべき官僚も、その役割を果たせなくなっています。
ところが、一般医薬品の99.8%が解禁されたにもかかわらず、三木谷氏はそれに満足せず、全面解禁を主張しました。彼は、産業競争力会議のメンバーから降りるとまで言ってゴネましたが、結局安倍総理や今井尚哉・首相秘書官らが引き留めたようです。
三木谷氏は、医薬品のネット販売を有望な市場と見ているはずです。実際、彼は亡き父親・三木谷良一との対談共著『競争力』(2013年)の中で、「処方箋薬は6兆円マーケットだから、巨額の利益です。……ただ薬を渡すだけの薬局がなぜ必要なのか、よくわかりません」と述べていました。
三木谷氏は、様々な有望新興企業に投資をし、そのうちのいくつかが当たればいいという発想で事業を拡大しているようです。規制撤廃によって新たに生まれるビジネス、しかもネットで商売になるビジネスこそが、三木谷氏の狙いどころだということです。