──三木谷氏は、自ら民泊やライドシェア解禁を主張し、その分野でも事業を拡大しようとしています。
森:安倍政権は、海外での水道民営化の失敗事例を十分研究することなく、水道法改正を強行しました。民泊やライドシェアについても、海外の失敗事例を十分研究するべきです。
性急な規制撤廃が業界に悪影響を与えた過去もあります。かつて、オリックスの宮内義彦氏が推進したタクシーの規制緩和によって、タクシー台数が急増しました。
その結果、タクシー運転手の収入が3分の2に減る一方、労働時間は1.2倍に増えてしまったのです。その犠牲の上に、儲けたのはオリックスです。オリックス自動車は、車両のリース事業で利益を拡大させたのです。
──三木谷氏は竹中氏と連携しているように見えます。竹中氏自ら、2000年の初めにコロンビア大学で開かれたコンファレンスに出席した時に、初めて三木谷氏と会ったと書いています。
森:竹中氏としては、規制改革を推進する上でIT系の企業経営者との連携が必要でした。竹中氏の規制改革路線に共鳴している有力IT経営者が、それほどいるわけではありません。ソフトバンクの孫正義氏もその一人ですが、やや毛色が異なります。竹中氏は、IT経営者の中でもサラブレット的存在である三木谷氏と組みたいと考えたのでしょう。
──楽天は、今年10月から携帯電話事業に参入します。
森:『文藝春秋』5月号に「日本発『世界モバイル革命』を起こす」と題した三木谷氏のインタビュー記事が載っています。
携帯電話業界では、2年未満で解約すると高額の違約金が発生するという「2年縛り」が慣例となっています。ところが、このインタビューの中で、三木谷氏は、「2年縛りなし」を実現すると述べ、「楽天は、そういった不自由な契約から利用者を解放します」と宣言しています。
気になるのは、この
三木谷氏の発言と、竹中氏の規制改革路線を高く評価している菅義偉官房長官の発言との符号です。
菅氏は昨年8月に「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と述べました。さらに菅氏は、「様々な取引慣行の是正などの課題にスピード感を持って検討・対応していくことで、利用者にとって分かりやすく納得のできる料金でサービスを提供できるよう早く実現して欲しい」とも語っています。
消費者にとって料金が安くなることは大歓迎ですが、
携帯電話会社の商売のやり方に政府が口を挟むのは、おかしいと思います。
──ジャーナリストの石川温氏は「携帯電話事業に新規参入する楽天の本当の狙い」と題した座談会で、「楽天の三木谷さんと菅官房長官が結託して話を進めているんじゃないか、みたいな話がある」と語っています(『アットダイム』2018年2月5日)。
森:菅氏の発言は、結果的に楽天の携帯電話事業参入を後押しすることになっています。
特定企業だけが優遇されるのは論外ですが、国民に不信感を持たれるようなあり様に問題があると思います。
<聞き手・構成 坪内隆彦 photo by
Guillaume Paumier, CC-BY.3.0>
もりいさお●出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。著書に『日本を壊す政商 パソナ南部靖之の政・官・芸能人脈』(文藝春秋)、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社)など