極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す。このままでは5年以内に世界の民主主義は危機を迎える

極論主義とネット世論操作の猛威

 Economist Intelligence Unitは民主主義の凋落は底を打ち、今後は回復するという希望的観測を述べているが、私にはそうは思えない。極論主義が台頭していることと、ネット世論操作の影響が拡大していることを合わせて考えると民主主義指数の傾向に別の解釈ができるからだ。  政治参加の増加は、極論主義とネット世論操作によっても実現される。扇動された人々が行動を起こすのである。ネット世論操作が関与して人々を扇動した実例はアラブの春、カラー革命、BLM(Black Lives Matter、黒人人権運動)、ミャンマーのロヒンギャ虐待、カタルーニャ分離独立運動など多数ある。ネット世論操作はポピュリズムを加速する。その一方で人権の悪化はポピュリズムによって政権を取った政党や政治家が独裁化の道を歩むからと考えられる。当然、そのような政府には透明性、説明責任、腐敗の防止などは望むべくもないので政府機能は悪化する。  選挙で選ばれた政党や政治家がエセ民主主義に進む理由についてはのちほど説明するが、重要なのは選挙が引き金になって民主主義が殺されることである。つまり現在のエセ民主主義拡大の傾向が続くのであれば、選挙が行われるたびに民主主義は悪化する。  ほとんどの国の議会の議員の任期は5年以内であるから(フランスの地方議会など例外はあるが)、5年以内にほとんどの国で選挙が行われ、極論主義の政党あるいは政治家が勝利する可能性がある。第一党を取れないまでも第二党にはつける可能性はかなり高い。そうなれば世界全体の民主主義の崩壊は加速するだろう。クーデターや革命と異なり、すぐにはわからないが、ゆっくりと確実に死んでゆく。  2019年、つまり今年は世界で80以上の選挙が行われ、そのほとんどは国政を左右するものだ。これまでの傾向が続くとすれば極論主義の台頭が予想される。

エセ民主主義台頭の陰の主役はSNSだった

 あらためて指摘するまでもなく、SNSを用いたネット世論操作は世界に広まっており、これが選挙の結果を左右するまでになっている。  その背景としてロシアはアラブの春、カラー革命などインターネットが重要な役割を果たした社会変革を西側の仕掛けた「脅威」として受けとったことがあげられる。ロシアだけでなく、多くの国が2010年前後にネットの有用性に気づいた。ベネズエラのチェベス大統領(当時)は2011年にツイッターで400万番目に自分をフォローした者に家をプレゼントするキャンペーンを行い、メキシコやブラジルでは2010年の段階でボット(プログラムで自動的に投稿などを行うアカウント)の存在が確認されている。  ネット世論操作というと、しょせんネットの中だけの騒ぎと思う方がまだいるかもしれないが、選挙の結果を左右し、暴動を起こす力がある。このことは前掲書でも指摘されている他、NATOを始めとする安全保障関係のレポートでもその認識だ。ロシアの参謀総長ゲラシモフは、今後の戦争においては非軍事手段が軍事手段よりも重要であり、その比率は4:1だとさえ言っている。  ネット世論操作は2010年前後から急速に世界中に広まっていった。『Challenging Truth and Trust: A Global Inventory of Organized Social Media Manipulation』(2018年7月20日、Samantha Bradshaw & Philip N. Howard)によれば世界48カ国でネット世論操作が行われており、全てで国内を対象として行われていた。いくつかの国は海外に向けても行っている。たとえばロシアやイランなどがそうだ。敵国を攻撃する「見えない戦争兵器」として積極的に活用している。2017年には28カ国だったから急増である。  現状ではネット世論操作に対する有効な対抗手段は存在しない。さまざまな方法を組み合わせて総合的に対処するしかないのであるが、それでも不十分であることは前々回の記事で解説したラテンアメリカ3カ国の結果から明らかだ。  戦いにおいて攻撃側と防御側の負荷が異なることを非対称と呼ぶが、現状のネット世論操作は最強の非対称兵器と言える。攻撃側は低コスト、低リスクで大打撃を与えることが可能で、防御側は高コストで対策を行っても防御は破られる。ならば防御側もネット世論操作で応酬すればよいという考え方もあるが、国家間の戦争において自由主義諸国は倫理的にできない。相手がやっているからといってロシアの国内でフェイクニュースを流し、暴動に広がるようなネット世論操作をしたことがばれたら大変なことになる。また、国内の選挙戦で言えば、端的に金と組織力を握った方が勝つだけになる。前回紹介したラテンアメリカの例では選挙戦で複数の候補者が互いにネット世論操作を仕掛け合い、結果として誕生した政権は独裁化した。
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こうなってきたら民主主義が危ない
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