与党の審議拒否は、国会制度の想定を超えた蛮行。これこそが「サボり」である

口頭質問制度の不在が問題を複雑化

 今回の予算委員会の開会要求は、櫻田オリンピック大臣や塚田国土交通副大臣の辞任を受けてのものです。いずれも、個人的事情による辞任でなく、大臣の資質や政策決定過程への疑念がつのった結果の辞任です。安倍晋三首相は、二人の辞任について、責任が自らにあることを表明しています。つまり、内閣としての問題です。  内閣の問題をチェックするのは、国会の重要な役割です。大臣・副大臣の発言の原因を解明し、安倍首相の任命責任を問うことがなければ、再発防止はかないませんし、内閣の国民に対する説明責任も果たされません。  ただ、このことに同意する人々であっても、なぜそれを「予算委員会」で行うのかについては、疑問に思う人も多いでしょう。実際、他の議院内閣制の国々では、このようなときに予算委員会を開きません。  それでは、他国の議会はどうするのでしょうか。ほとんどの場合、日本のように、与野党の合意で委員会を開催する必要がありません。もちろん、同様の問題が起きれば、日本以上に厳しくチェックされます。  実は、首相を含む各大臣に対して「口頭質問」の機会が、政局と無関係に定期的に開催され、そこで行われます。例えば、イギリス議会では、開会中の月~木曜日、決まった時間に本会議場で「口頭質問」を実施しています。大臣が日替わりで登場し、議員の質問に答弁します。毎週水曜日は、首相答弁の日で、慣例で野党党首が質問に立ちます。フランスとドイツは週1回、開催しています。  残念ながら、口頭質問制度は、日本の国会では廃れてしまいました。国会法と衆参規則では、口頭質問の規定がまだ残されているため、与党(国会多数派)さえやる気になれば、明日にでも可能です。けれども、実際のところは、口頭質問制度を知っている国会議員はいませんし、与党が実施する気になるかは疑問です。その気になるくらいならば、今回の予算委員会も開会に応じているはずだからです。  口頭質問が廃れてしまった国会では、衆参の予算委員会が実質的な代わりを担っています。野党が予算審議を「人質」に取り、開会を要求してきた経緯があります。予算委員会は、首相を含めて全大臣を出席要求することも可能です。  予算委員会の最大の問題は、定期的な開会が約束されず、与党の同意が必要なことです。それでは、与党を基盤に成立している内閣のチェックという国会の役割を果たすことが十分にできません。  それでは、今回、衆参の予算委員長はどうすべきだったのでしょうか。

与党は国会軽視の行動をやめろ

 予算委員長は、衆参規則を無視せずに、予算委員会の開会日程を決めるべきでした。開会当日、与党委員が委員会室に現れなければ、定足数を満たさないため、そこで流会(中止)となります。結果としては同じに思えますが、誰も衆参規則に反することになりません。  なぜ、委員長は規則に基づいて開会し、結果として流会させず、規則を無視して開会を拒否したのでしょうか。それは、与党の審議拒否を「可視化」させないためだったと考えられます。野党の審議拒否が「諸刃の剣」となり得るリスクある行為であると同様に、与党の審議拒否もリスクがあります。ただ、野党の審議拒否は自ずと「可視化」されるのに対し、与党の審議拒否はあらかじめ委員会を開会しないことで「可視化」しにくいのです。委員長が衆参規則を踏みにじってまでも、それを避けたかったということです。それは、国会を軽視する行動に他なりません。  それでは、野党にはどのような対抗手段があるのでしょうか。  一つは、衆院決算行政監視委員会の開会について、同じ規則に基づいて開会要求することです。委員長は野党なので、委員長の職権で開会期日を決めることが可能です。もちろん、開会しても定足数に満たないため、委員会は流会となります。けれども、与党による審議拒否を「可視化」することは可能です。委員会室がガラガラの状態で、開会を待つシーンは、審議拒否をするときの野党にとってキツイ場面です。それが与党の責任になるのです。  もう一つは、野党合同ヒアリングを開催し、櫻田大臣や塚田副大臣に随行した官僚、部下の官僚からヒアリングすることです。直接的ではありませんが、問題の解明にはつながります。以前、筆者の解説「野党は国会を見据えて行動を。野党もできる実のある国会改革」で論じたように、野党合同ヒアリングは、国会改革の可能性を秘めています。  繰り返しますが、野党の「審議拒否」が多くの有権者の目に見えやすいのに対し、与党の「審議拒否」は有権者の目から見えにくい状態にあります。与党も、様々なかたちで「審議拒否」していることが多くの有権者に伝わり、それが国会の役割を損なう問題であると知られることは「熟議の国会」をつくる最初の一歩になります。 <文/田中信一郎> たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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