アンケートでは8割の人が、子ども優先スペースのような「子ども専用車両」を望んでいることもわかった。「子ども運賃もあり、鉄道会社は子どもの利用を想定しているが安全確保が不十分。全ての列車に実装すべき」といった意見が出ている。
平本さんは結果をもとに、「子育て応援車両」設置を求めた要望書を作成。小池百合子東京都知事に提出した。都知事からは、「国会議員時代には、女性専用車両設置を実現した。その立場の人間として、前向きに検討したい。子育て応援車両が一両でもできたら、東京がもっとよくなると思う」との回答があった。
子どもに配慮すべきとの議論は以前からあり、都営大江戸線では今夏から一部の車両に「子育て応援スペース」の設置を決めている。座席をなくし、ベビーカーや抱っこひもで子どもと利用する乗客のための空間を設ける。
平本さんは子育て応援車両のイメージとして、JR九州が運行する「特急あそぼーい」を挙げる。車内には、子どもが座りやすい座席や絵本を読める図書スペースなど、子どもが楽しく利用できる工夫が凝らされている。特急電車の事例だが、「都心の在来線でも、子どもをひとりの乗客として尊重した機能の実装を求めます」と平本さんは意気込む。
「子育て応援車両が、子育てを取り巻くすべての問題を解決するわけではありません。しかし最寄りの保育園に入れず、満員電車に乗らざるをえない人たちや、ひとりで電車に乗る子どもたちが直面するリスクは減らせます」
平本さんは、子育て応援車両の設置を「期間限定の措置」ととらえる。
「子育て応援車両がなくても、乗客同士が自然と思いやれる状況が理想です。もちろん、子育てをしてみないとわからないことはあります。当事者になれなくて、いま子どもや子連れ利用者が電車で危険を抱える事実の意識はできるはずです。子どもを社会の一員として受け入れる社会を目指します」
親が子育てしやすい環境を訴えると、「好きで産んだんだろ」「わがままを言うな」といった自己責任論で批判する人が出てくる。しかし、加速する少子化を食い止めるためには、子どもと一緒に暮らしやすい環境整備は急務だ。
子育て応援車両に反対意見を唱える人はいるが、子どもや子連れ利用者の心理的、身体的安全を保障する車両の設置は、極めて大切だ。今後の動向に注目したい。
<取材・文/薗部雄一>
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。