筋肉増強牛や真鯛、籾数増加イネ……「ゲノム編集食品」の多くが未表示のまま市場に出回る可能性浮上

上林裕子

環境省と厚労省で、規制の範囲に違い

厚労省ゲノム編集有識者会議

厚労省ゲノム編集有識者会議

 遺伝子組み換え生物を規制する法律は2つある。1つは食品としての安全を確保するための「食品衛生法」で、厚生労働省が所管する。もう1つは生物多様性を守るための「カルタヘナ法」で環境省が所管している。  どちらの法律でも、遺伝子組み換えについて「ある生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、その性質を持たせたい他の生物に組み込む技術」と定義している。  ゲノム編集では部位特異的ヌクレアーゼ(SDN)とよばれる酵素を使って遺伝子の二重らせんを切断するが、その方法は次の3つに分類される。 ①遺伝子を切断する(SDN-1)、 ②遺伝子切断箇所に短い鋳型として外来遺伝子を入れる(SDN-2) ③遺伝子切断箇所に長い鋳型として外来遺伝子を導入する(SDN-3)  厚労省の報告書では、SDN-1とSDN-2は遺伝子組み換えとして規制されないとし、SDN-3のみ従来の遺伝子組み換えと同じく「安全性審査が必要である」とした。  これに対し、環境省は導入する遺伝子の大きさに違いはあっても、SDN-2とSDN-3は「外来遺伝子を組み込む」点では同じであるとしてSDN-2とSDN-3は「遺伝子組み換え生物」であるとして規制の対象とした。  厚労省は「SDN-2はわずかだが外来遺伝子が組み込まれるが、それは自然界でも起こりうること」であるとして、規制の対象とはしなかった。

規制対象外のものでも情報提供を求めるが、「法的義務とはしない」

 厚労省は、規制の必要がないとしたSDN-1やSDN-2によって開発された食品については、「食品として安全ではあるが、今後の状況の把握等を行うため、開発者等から情報の提供を求め、その概要は公表する」とした。  報告書では「従来の育種技術と同じ」としながらも、ターゲット以外の遺伝子が切断される「オフターゲット問題」などが指摘されているゲノム編集食品を、まったくノーチェックにはできないとして届出制度を作ることになったが、厚労省はこの届出制度は「法的義務とはしない」としている。

環境省は「遺伝子を切断」のSDN-1のみを規制対象外に

コピー環境省と厚生労働省の規制の違い 生物多様性の確保を目的とした「カルタヘナ法」に基づき遺伝子組み換え生物の規制を行っている環境省は、ゲノム編集についてSDN-2とSDN-3は遺伝子組み換えとして規制の対象とし、「遺伝子を切断」のSDN-1だけを規制からはずしたが、これについては厚労省同様、情報の届出を求めている。  カルタヘナ法では、開発から栽培・飼育等の段階での管理・規制を対象としている。ゲノム編集された生物が自然界に出てしまい交雑してしまった後で「規制が必要だった!」と気づいても取り返しがつかないからだ。  検討会での議論では「SDN-1のようにカルタヘナ法の対象にならないとしたものでも、どのような影響があるか考える必要がある」「海外で規制されていないものが輸入された場合、ゲノム編集したものかどうかは分からない」「カルタヘナ条約を承認していない国から入ってきたものはどう対処するのか」などの意見が出された。  また、「ゲノム編集は誰でもできる技術になってきている。事業者でないものが開発した場合、また悪意がある開発者の場合はどうするのか」などの懸念も示された。
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安全性の確立は? 規制と表示を求める声も
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