責任者が責任をとらず、その意思もなく、従って、撤退出来ないというのは、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝夫、村井友秀、野中郁次郎・著/ダイヤモンド社・文庫版は中央公論社)のインパール作戦についての箇所でも指摘された日本の組織特有の致命的欠陥です。そういった視点から、中西発言を見ると、
(責任をとりたくないが故の)不退転の決意が見えてきます。
そのために、「
国民の同意を得ねばならない」という文脈です。したがって、これは本来の意味でのPAではなく、本連載で度々指摘してきたPAならぬ「
ヒノマルゲンパツPA」を大々的に行うという経団連会長の宣言であると断定出来ます。
2019年頭記者会見での中西氏による発言、「国民が反対するものはつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない。(中略)真剣に一般公開の討論をするべきだと思う」ですが、この後、このような言動を行っています。
「
原発と原爆が結びついている人に『違う』ということは難しい」(出典:
“中西経団連会長「失礼だった」 原発と原爆の混同を釈明:朝日新聞”2019/2/25)
また、「原発の再稼働に向けて国民的な議論の場が必要だ」と発言しながら、小泉純一郎元首相などが参加する「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」から公開討論を申し込まれると、「
感情的な反対をする方と議論しても意味がない」として、現在も逃げ回っています。おかしな話です。反対者との対話は、PAの基本中の基本です。(参照:
“中西経団連会長、原発は必要=東日本大震災8年:時事通信”2019年03月11)
まず、「原発と原爆が結びついている人に『違う』ということは難しい」は、
1960年代の高校生程度の知識です。このような半世紀時代遅れの誤った知識で原子炉メーカー会長が核と原子力を語ることは、社会にとってたいへんな脅威です。
「原発の再稼働に向けて国民的な議論の場が必要だ」と発言しながら、小泉純一郎元首相などが参加する「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」から公開討論を申し込まれると、「感情的な反対をする方と議論しても意味がない」として、現在も逃げ回っていることには、
「保身」「面子」という極めて強い「感情」に突き動かされる意思を感じます。
これはヒノマルゲンパツPAに極めて特徴的なのですが、
論敵に対して「感情的」というラベリングをすることにより逃げ回り、連呼による刷り込み効果によって相手の人格をおとしめるという
暴力型PAの事例としてホルマリン漬け標本にしたくなるような形式美を自ら晒しているといえます。
私は、1月5日の中西氏による年頭会見からこの方はヒノマルゲンパツPAの歩く標本ではないかと注目してきましたが、4月8日の経団連発表で、政府、電力とは異なる第三極として国際原子炉市場から逃げ帰ってきた原子炉メーカーが生き残りをかけたヒノマルゲンパツPAを開始したと判断しています。時を同じくして、日本原子力産業協会(JAIF)がPA活動を活発化しています。
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あつまれげんしりょくむら(JAIF)*
<*:「原子力村」は、おそらく東海村が語源で、1960年代には業界紙に現れている言葉であって、由緒正しい自称である。批判的に使われる「原子力ムラ」とは赤の他人である>
ヒノマルゲンパツPAは、それによる原子力従事者、事業体、政治家、政府自体の自己暗示を起こし、結果として
福島核災害の原因である安全神話ともなりました。日本にとっては致命的な宿痾といえます。一方で、文書などを入手し、その実態を紐解くと、もはや喜劇としかいえない実態もあります。これは多くの市民が資金提供者、納税者として知る権利を持ちます。
本連載では、原子力PAシリーズ第三弾として、以降数回に渡り4/8経団連発表を軸に様々な側面から分析を試み解説してゆきます。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編Ⅲ−−1
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo by
Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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