“人類最大の祭典”リオのカーニバルの根底にある「持たざる者たちの、支配への抵抗」

サンバ文化そのものが、生き残るための手段・哲学

彼女は存在する

“PRESENTE”の文字には、たとえ殺されてもその魂と遺志は残された我々の中で生き続け、いまだ彼女は「存在」しているとの意味が込められている

 優勝したマンゲイラのサンバの歌詞とパレードで讃えられていた“英雄”は、女戦士・ダンダーラ(Dandara)。ブラジルの黒人奴隷解放運動の英雄であるズンビーの妻で、彼女もまたブラジルのすべての混血民のために戦った。そして17世紀後半から18世紀初頭にかけブラジル北東部で蜂起した先住民カリリー族。  さらにもうひとりの“英雄”が、昨年暗殺されたマリエーレ・フランコ氏。これは単なる2019年のカルナヴァル優勝曲として終わらない、歴史的なプロテスト・ソングとなりそうだ。現在のブラジルでは、強まる政治的社会支配に対するプロテスト・ムーヴメントの1つとしてカルナヴァルとエスコーラ(地域に根ざした歴史的サンバ共同体)、、そして「サンバの精神」が訴求されている。その「サンバの精神」による市民活動が古くから理解・認知されているフランスでは、早くもフランス人アーティストにフランス語でカヴァーされ話題となっている。  今回、日本の一部のマスコミでは、政治・社会問題へのプロテストをテーマにしたパレードがカルナヴァルのメインイベントで行なわれたことを“珍事”のように取り上げていた。しかし、実はそうではない。  たとえば昨年の覇者ベイジャ・フロール(Beija-Flor)は、階級差別・人種差別・アフリカ系旧奴隷民の社会的排他問題、抜け出せない貧困構造と社会暴力化問題をテーマにパレードした。同準優勝の トゥイウチ(Tuiuti)も、ミシェル・テーメル大統領(当時)を吸血鬼の姿で山車に登場させて政権批判していた(2019年3月21日に逮捕)。  このように、社会問題への提起・告発や政治批判をパレードのテーマにするのは、今に始まったことではない。実はブラジルでは、何十年も前から続いているのだ。
マンゲイラの旗

今回のカルナヴァルで話題となったマンゲイラの旗。ブラジルの国旗がマンゲイラの色に置き換えられ、本来「進歩と秩序」と標語が書かれてある中央部分には「先住民、黒人と貧困者たち」と置き換えられている。社会的弱者に追いやられている大量の国民への注目と配慮を訴えていた

 一方、日本では、リオのカルナヴァルやサンバが単なる享楽的なもの、音楽ジャンルやアレンジの一つでしかないと“誤解”されていることが多い。  しかし、そもそもサンバやそのエスコーラは支配者によって奴隷化されたアフリカ系民にその源流を持ち、世界各地から大量の移民を受け入れたブラジルの混血とともに広がった「持たざる者たちの地域共生共同体文化」なのだ。  サンバ文化そのものが生き残るための手段・哲学であり、「歴史的な持たざる者たちの、支配への抵抗=レジスタンス」と謳われてきたのだ。リオのカルナヴァルで知られるサンバチームの数々は、同時に下町地区に根ざした助け合いの共同体でもある。
スマホで撮影

マンゲイラのパレードを一斉にスマホで撮影する観客たち

 単なる“お祭り騒ぎ”ではない、リオのカルナヴァル。世界中の民族が流れ込み、混血したブラジルを象徴するこの祭典の注目度と存在感は増すばかりだ。 <文・写真/KTa☆brasil(ケイタブラジル)Riotur/LIESAリオ市公式取材者・プレゼンター 協力/Nikon>
東京生まれの日本人。世界各大陸で活動する音楽家、ライター、番組レポーター。神奈川県の在日米軍施設の近くで育つ。同時にサッカー/野球/F1GPとの関わりから「汎ラテン圏の民衆力」に着眼。米国を経て1997年よりブラジル各地での活動を継続中。共著書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)ほか、寄稿多数。MTVやFM各局、NHKテレビ「スペイン語講座」などのレギュラー出演を経て、戦後日本体制の常識に疑問を持つ。世界各地の民族史と音楽史、移民史、混血文化史を、現地との関わりを持って研究し続けている。『Newsweek』誌「世界が尊敬する日本人100」に選出。Twitter:@KTa_brasil  公式サイト:keita-brasil.themedia.jp
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