却って夫の要求水準が上がり、「
サラダにアスパラ入れて欲しいのは言ったよね?」(聞いた覚えはないが、反論しても埒が明かない)、「
洗濯は、残り湯でしてるかな?」(入浴は夜なので、残り湯を使うと洗濯は夜になる)、「
食費は、一日500円って言ったよね?」(倹約して、貧しいおかずにすると明らかに不満顔になる)、「
(子が夜泣きすると)僕は明日も仕事って、知ってるよね?」(子はしばしば夜泣きした)などと質問モラは尽きることがない。
妻は、それでも、夫の意向に沿うように頑張っていたが、夫の帰宅時刻が近づくと気が滅入るようになってきた。玄関の鍵のガチャ音がすると、心臓が飛び跳ねる。
子どもを母に任せて、家事の合間に椅子に座ると、ふいに熱い涙が頬を流れた。しかし、自分の泣いている理由は全くわからない。悲しさも悔しさも、何も感じないのである。その半年後、全てが嫌になった。子を連れて実家に帰った。後日、「適応障害」と診断された。
ところが、本人も、私が指摘するまで、
モラハラを受けていた自覚がなかった。「私はダメな妻」と自責の念が強かった。おそらく、夫本人も、モラ夫の自覚はないだろう。
別の妻は、土曜日に歯医者に行くと夫に告げた。
夫は、「俺に子守りしろと言うのか」と反発する。妻が、「虫歯が痛むの、お願い」と頼むと、夫は、「俺は、平日働いて、疲れているんだ。俺を殺す気か」と言う。
子守りすると、この夫は「死んじゃう」らしい。
歯医者から急ぎ足で帰ると、夫はソファでいびきをかき、子ども(2歳)は、ソファの近くで泣いていた。妻は、
「私、何のために結婚したんだろう」と根本的な疑問を抱く。その後も、家事、育児はワンオペだったが、妻は、夫に何も頼まなくなった。
それから、10数年が経過し、この夫婦は、現在は、家庭内別居である。妻は、いつ、家を出ようか思案中である。
以上、ソフトモラの事例を説明した。日常的に、繰り返しソフトモラを受け続ければ、妻の心身は蝕まれていく。
見た目が軽く、周囲の理解が得られにくくても、ソフトモラが猛毒であることに変わりはない。
問題点は、明白だ。
意識的にせよ、無意識にせよ、妻を支配し、従属させようとするモラ夫の意図にそもそもの原因がある。
夫婦は、
手を携えて幸福な家庭を一緒に築いていくイコールパートナーのはずである。日本男性は、そろそろ目覚めなければならない。
まんが/榎本まみ
【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『
入管実務マニュアル』(現代人文社)、『
国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『
アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(
@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中