劇場型政治と“カリスマ”――00年代、小泉「ワンフレーズ・ポリティクス」の影響力 <「言葉」から見る平成政治史・第4回>

小泉ポスター

2001年の自民党本部

「移行と試行錯誤の時代」だった2000年代

 2000年代は過渡期の時代であった。1990年代のバブル崩壊や就職氷河期、証券会社の破綻、自民党政治の終焉と復活等変化の兆しはありつつもそれらは本格化していなかった。変化が急速に具体化するのが2000年代に入ってからである。変化は小刻みに生じ、不安定なものであった。政治に限定しても、2000年~2009年の自民党出身の総理大臣は小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生と実に6人に及ぶ。そのうち小泉内閣は5年余りの期間であったわけだから、小泉を例外視するなら、それ以外の内閣は均すとおよそ1年程度の在任期間だったことになる。  本連載の初回でこの期間を「移行と試行錯誤の時代」と評したが、ポスト昭和、つまり平成の時代が本格化するための試行錯誤がなされていた時期といえよう。それは政治の内的システムのみならず、メディア環境もインターネットを中心としたものへと本格的な移行が始まる。1990年代におけるインターネットは実在するメディアというよりもなんでもそこに重ねてみることができるバズワードであり、技術の水準や普及率の観点からしてもごく一部の先駆的なユーザーやビジネスで利用されているにすぎず、まだ広く政治やメディア、社会に大きなインパクトを与えるには至っていなかった。  だがモバイル化や普及率の向上、さらに回線の大容量化と高速化、いわゆるブロードバンド化が進んだことで状況は変化し始める。  少し振り返るかたちで、2009年に公開された総務省の『平成21年版 情報通信白書』を紐解いてみたい。

劇的に拡大したインターネット、そしてスマートフォン

インターネットの利用者数及び人口普及率の推移

「インターネットの利用者数及び人口普及率の推移」(総務省『平成21年版 情報通信白書』より※1:参照リンク

 総務省の『平成21年版 情報通信白書』によれば、2000年(平成12年)のインターネット普及率は37.1%、それが2002年にはじめて人口普及率が50%を上回り、2008年末には75.3%になった。
ブロードバンド契約数の推移

「ブロードバンド契約数の推移」(総務省『平成21年版 情報通信白書』より※2:参照リンク

 同白書では「ブロードバンド」を「ケーブルテレビ回線(CATV回線)、固定無線回線(FWA)、第3世代携帯電話回線、光回線(FTTH)、DSL回線のいずれか」の利用とみなしているが、利用者は2002年には約1400万世帯だった契約数が、2008年末には倍増し3000万世帯にまで普及している。
情報通信機器の世帯普及率の推移

「情報通信機器の世帯普及率の推移」(総務省『平成21年版 情報通信白書』より※3:参照リンク

インターネット利用端末別の利用率の推移

「インターネット利用端末別の利用率の推移」(総務省『平成21年版 情報通信白書』※4:参照リンク

 総務省の『平成21年版 情報通信白書』は、2000年には80%程度だった携帯電話は95.6%にまで普及したこと、また2001年には20%程度だった携帯電話からのインターネット接続が2008年には62.6%にまで増加したと記している。  ちなみに2008年には、日本においてスマートフォンの代名詞ともなったiPhoneがAppleによって発売される。2000年代冒頭には、かつて有名なインターネット時代のビジョナリーであったハワード・ラインゴールドはインターネットとネット接続可能なモバイル機器(携帯電話)普及の社会的インパクトと世界的な未来像を描くのに、日本の渋谷と女子高生の描写からはじめている(ハワード・ラインゴールド『スマートモブズ――“群がる”モバイル族の挑戦』NTT出版、2003年)。  しかし日本型モバイルは先駆的ではあったが海外進出やデファクト・スタンダードを本気で取りに行ったとはいえず国際標準となることはなかった。2010年代にその地位を得たのがiPhoneとGoogleのAndroidを搭載したスマートフォンだったが、この時期にはまだその意味は認識されていなかった。  いずれにせよ、2000年代を通して、インターネットは標準的な日本のインフラとなっていったが、その移行過程において多くの試行錯誤がなされたと推論することができる。  メディアと政治の関係や、さらに社会や民意との関係も同様に考えることができるはずだ。
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政治の言葉を操った小泉純一郎
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