さて、このように、一般論としては、現行憲法を前提としても、軍事研究に反対であるべき、という結論が自動的にでてくるわけではありません。が、しかし、
一般論ではなく、現在の状況においては、軍事研究に協力するのは好ましくない、と思います。この理由は単純なもので、
現政権とその下での官僚機構が、正常に機能しなくなっているからです。
ここで正常な機能とは、
きちんとしたデータと論理に基づいた判断をさします。泥沼になっている
雇用統計の例だけでも、政府の発表が「大本営発表」としかいいようがないものになっているのは明らかですが、同様な問題が様々なところでおこっています。正常に機能していない、ということは、
合理的な判断をする保証がない、何をするかわからない、というリスクがある、ということです。
集団自衛権を容認することで原理的には国外での無制限の軍事力行使を正当化した現政権が、いつどこでなにをするかわからない、という状況において、その軍事力を強化することに協力するのは、もちろん、自分一人がどう行動したって世界が変わることはない、ということはあるにしても、それでも避けるべきことではないか、と思うのです。
では、政権とその下での官僚機構がきちんと機能しているなら、軍事研究に協力するのは問題ないのか? と疑問に思う方もおられると思います。これに対しては、
このようなことが議論されるのは、そもそも政権とその下での官僚機構がきちんと機能しているかどうかが疑問になっている時である、というのが、現実的な回答になっていると思います。
<文/牧野淳一郎 Twitter ID:
@jun_makino>
まきの じゅんいちろう●神戸大学教授、理化学研究所計算科学研究センターフラッグシップ2020プロジェクト副プロジェクトリーダー・学術博士。国立天文台教授、東京工業大学教授等を経て現職。専門は、計算天体物理学、計算惑星学、数値計算法、数値計算向け計算機アーキテクチャ等。著書は「
シミュレーション天文学」(共編、日本評論社)等専門書の他「
原発事故と科学的方法」「
被曝評価と科学的方法」(岩波書店)