軍事利用に対する天文学会の声明、「意識に世代差」報道に現役研究者が思ったこと

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「天文学の軍事利用」の意見に世代差?

 3月16日に、 日本天文学会は「天文学と安全保障との関わりについて」という声明を発表しています(※参照)。以下に NHK の報道を引用します。 ▼“天文学は軍事利用せず” 学会が声明も世代間で意見の違いWeb Archive) “軍事利用につながる研究と科学者の関係が問われる中、日本天文学会は、「人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究は行わない」とする声明をまとめました。  天文学の分野では望遠鏡の技術がレーダーに転用できるなど、軍事利用につながる技術が複数あります。 (中略)  ただ、防衛省の研究資金の制度については研究費が減る中、認めるべきだという意見や、世界情勢を考えると防衛には協力すべきだという意見が若い世代を中心にあったということです。 (中略)  日本天文学会は、防衛省が装備品の開発につなげるため大学などに研究資金を出す「安全保障技術研究推進制度」について、去年秋、学会に所属する研究者など2829人にアンケート調査を行い、結果の一部を公表しました。  このうち、この制度について賛成か反対かを問う質問に対して、全体のおよそ28%にあたる800人が回答し、反対が54%、賛成が46%で反対が上回りました。  一方、年代別に見ますと、70代以上は反対が81%賛成が19%、60代は反対が72%賛成が28%、50代は反対が68%賛成が32%、40代は反対が54%賛成が46%、30代は反対が48%賛成が52%、20代は反対が32%賛成が68%でした。  若い世代ほど防衛省の制度への賛成が増え、20代と30代では賛成が反対を上回りました。  賛成の理由については「昨今、基礎研究のための資金が減る中、趣旨を問わず、制度に応募できるようにすべきだ」という意見や、「世界情勢を考えると防衛省が基礎研究を推奨することは当然だ」といった意見などがあったということです。  このほか、「学会のような組織が、個々の研究者の考え方を制限すべきではない」との意見も出たということです。 (後略)” 引用終わり  この NHK 報道は、 ・防衛省が大学等に研究費をだすことに、天文学会の中では賛成・反対が拮抗している。賛成は若手ほど多い ・それにもかかわらず、天文学会は「人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究は行わない」という内容の声明を学会として発表することを強行した  という印象を与えるものになっています。これは別に NHK が偏向報道をしているからではなく、天文学会の声明を読んでも、そのような印象をうけます。  但し、声明を詳細にみると、話はそれほど単純なものではないことがわかります。

天文学会の意見は「割れて」いたのか?

 経緯が a.天文月報への連載 b.日本天文学会年会における3回の特別セッション(2018年3月14日、2018年9月19日、2019年3月14日) c.会員全体への第一回アンケート実施(2018年10月) d.ワーキンググループを立ち上げて、議論 e.理事会、代議員総会、会員全体集会、臨時会員全体集会において、議論 f.これらを踏まえてまとめられた声明案に対して会員全体への第二回アンケート実施(2019年3月) g.2019年3月14日理事会の後、2019年3月15日 代議員総会にて議論を行い、本声明を決定  とあるように、アンケートは2018/10、2019/3の2回行われています。しかし、2回目のアンケートの結果はまだ公表されていません。  公表されていないものなので詳細な数値についてはここでは述べませんが、天文学会員には結果は通知されています。  2回目のアンケートは「声明を発表するのに賛成か反対か」を問うもので、結果は「今回の声明の発表に賛成」が「反対」を大きく上回り、年齢分布も単純に若いほうが反対が多いというものではありませんでした。つまり、報道をみても、また天文学会の発表資料をみても、特に若手に多い、防衛省からの研究費に賛成する声を無視して、老人からなる執行部がそういうものに反対する声明を勝手にだした、と見えてしまうのですが、2回目のアンケート結果は違うこと、つまり、声明は天文学会員多数の支持を得た、ということを示すものでした。だからこそ、天文学会は声明を発表したのです。
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「世代差」が生まれた構造的要因
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