対して、JR山田線区間は海岸線に近い標高の低いところを走る区間が多く、被害は甚大だった。
「山田線宮古~釜石間では地域の中心的な駅であった陸中山田駅や大槌駅が失われました。もちろん線路も流失するなど、簡単に復旧できる状況ではなかった。ただでさえ大赤字の路線であることに加え、再び大きな津波に見舞われる可能性も考慮すればJR東日本が簡単に復旧に踏み切れなかったのも無理はありません」(前出・境氏)
実際に新たに開業した「リアス線」に乗ってみれば、北リアス線・南リアス線の区間と山田線区間では車窓に大きな違いがあることがわかる。南北リアス線はトンネルや橋が多いのに対して、山田線は地上を走っている区間が大半なのだ。
「ただ、南北のリアス線の復旧が見通せる段階になれば、山田線区間が不通のままでは“分断”が際立って復興への足かせになることは間違いない。観光促進という観点でも宮古と釜石が鉄道で結ばれていないというのは大きなマイナスになる。逆に、その区間が三陸鉄道に移管されれば南北リアス線との直通運転も可能になって利便性が大幅に向上することは間違いない。観光はもちろん、地域の利用者にとっても震災前以上に使いやすい路線になるはずです」
こうしたことにより、鉄道での復旧を渋っていたJR東日本も鉄路復活を決意。三陸鉄道への移管に加えて再開後の赤字補てんなどのために一時金として30億円を拠出することにもなった。
「穿った見方をすれば、“厄介な赤字路線をJRが熨斗を付けて三陸鉄道に押しつけた”という見方もできるかもしれません。しかし、JRよりは地域密着の第三セクターである三陸鉄道のほうが地域のニーズに合わせた運行サービスが提供できることも間違いない。南北で分断されていた三陸鉄道にとっても、車両や乗務員の運用などで効率化を図ることができますし、メリットは大きいでしょう。ただ、それもこれも三陸鉄道が“復興のシンボル”になりえたから。そうでなければ、三陸鉄道もまとめて廃止・バス転換されてもおかしくなかったわけですから」
ともあれ、震災から約8年たって開業した三陸鉄道リアス線。長く鉄道がなかった山田線宮古~釜石の沿線では人口の減少も著しいという。そうしたなかで、リアス線が“起爆剤”になるのかどうか。今後の動向にも注目である。
<取材・文/HBO編集部>