世論操作は数十セントから可能だった。NATO関連機関が暴いたネット世論操作産業の実態
The Black Market for Social Media Manipulation』は、ネット世論操作産業の実態を暴いたレポートだ。ネット世論操作産業の業者の多くは堂々とインターネット上で活動し、グーグルやBingに広告まで出稿していた。本稿では、このレポートの内容をかいつまんでご紹介したい。
ネット世論操作の市場のある場所は3つのカテゴリーに分けられる。
・オープンな市場:ふつうのインターネットでアクセスできる空間。
・ダークウェブでの市場:ただし隠れる必要がないのでオープンな方が安いことが多い。
・オフライン:リアル世界での直取引。
もちろんSNS事業者はネット世論操作を禁止しているが、それは私企業の利用規約の範囲だ。ネット世論操作という行為が違法になっていない国も多い。彼らは堂々とグーグルやBingに広告を出しているくらいだ。つまりもっとも多くの業者がいるのはオープンな市場なのである。
価格が安価なこともあり、顧客は政府から民間企業まで多岐にわたる。
ネット世論操作を利用するデメリットは大きく4つある。
1.技術的リスク。SNS事業者に検知され停止される。
2.レピュテーションリスク。露見した時に企業の信用に傷がつく。
3.提供者が信用できない。詐欺の可能性などがある。
4.一時的なものであり、いつでもなくなる可能性がある。
だが、実際にはメリットの方が上回っている。ネット世論操作はコストパフォーマンスがきわめてよい攻撃方法なのだ。
1.見つかりにくい。
2.わかりやすい商品と価格。
3.幅広い品揃え。
4.成功時の報酬が大きい。
ネット世論操作業者の扱う商品は、アカウントそのものの販売と、彼らの持っているネット世論操作ベース(ボットネットなど)を使ってのネット世論操作の実施である。
1.フェイクアカウントの販売
プログラムで自動的に登録したもの、手動で登録したもの、他人のアカウントを乗っ取ったものなどのアカウントが販売されている。アカウントの価格はその内容によって異なる。
アカウントに付随するコンテンツによって価格は変化する。コンテンツなし、プロフィール写真付き、プロフィール写真といくつかの写真付き、プロフィール写真といくつかの写真付きに加えていくつかの投稿付きといった感じで情報量が多いほど高くなる。
アカウントの年齢(登録してからの期間)によっても価格は変わる。数日から7年以上まで幅があり、長期間のアカウントほど高い。
2.ネット世論操作の実施
いいね!、コメント投稿、シェア、閲覧数増加、フォロワー増加などのネット世論操作を代行するサービス。具体的には下記によって実施される。
・フェイクアカウントの利用
・専用のフリーランスの利用(主に発展途上国)
・「いいね! 交換所」の利用
・マルウェアによってPCを乗っ取って操作する
多くの業者はYouTubeなどのSNSで「トレンド偽造サービス」を行っている。また、ウェブのパネルやアンケート調査、オススメサイトの結果を依頼主の望むものにするためのサービスや競合相手を誹謗中傷するサービスもある。レポートによれば民間企業もこれらのサービスを利用している。
世界中に広まっているネット世論操作だが、それを販売するネット世論操作産業(social media manipulation industry)が実在する。彼らは、アカウントやいいね!やフォロワーを売買する。というといかにもアンダーグラウンドのように聞こえ、ダークウェブ(一般のインターネットと異なり匿名化ツールでアクセスする)で正体不明の業者が暗躍するイメージを持っていないだろうか? そのイメージは完全に間違っていたことが今回のレポートでわかった。
2019年1月29日にNATO Strategic Communications Centre of Excellenceが公開した『
3つの市場
ネット世論操作業者の扱う商品
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。
近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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