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ニュージーランド南部のクライストチャーチでモスクが襲撃され、50人が死亡した事件。同国と襲撃犯の出身地であるオーストラリアだけでなく、世界中から大きな非難が寄せられ、移民政策や白人至上主義、銃規制や政治家の対応をめぐった議論が沸き起こっている。
オセアニア地域で起きた同事件だが、その余波は世界中に押し寄せている。たとえば、スウェーデンの『The Local』は「
ニュージーランドのテロ容疑者 銃撃はストックホルムで起きたテロへの復讐だと主張」という記事を掲載。犯人がインターネット上に投稿したマニフェストのなかで、スウェーデン連続テロ事件の実行犯アンネシュ・ブレイクビクの名前を挙げたことや、‘17年にストックホルムで5人が殺されたテロ事件の被害者で、当時11歳だったスウェーデン人少女エバの復讐が動機だと説明していることを報じた。同記事は犯人が名前を挙げた少女、エバの父親のコメントを掲載している。
「法廷で証言したとき、私はいつも娘の死を思い返すと話しました。人々がスウェーデンで起きた事件について語るときだけでなく、他国で似たような事件が起きたときもです。しかし、まさか誰かがエバの名前をライフルに書くなんて、想像もしませんでした」
また、アメリカの『
NBC』は、犯人がマニフェストで反移民、反ムスリム、白人至上主義に触れていたことを紹介している。
トランプ大統領を「新たな白人のアイデンティティの象徴」として支持しており、アメリカの銃規制強化に触れながら、アメリカでの人種戦争を始めることを誓う部分だ。
“修正第2条を巡る争いと銃火器保持の権利を奪う試みは最終的に内戦へと繋がるだろう。それによってアメリカは政治、文化、そして何より人種的に分裂する”
同マニフェストは「8チャン」の掲示板に投稿され、多くの8チャンのメンバーは襲撃を祝福し、掲示板はマニフェストをモチーフにしたミームや身内のジョークで溢れたという。
日本でもさまざまな掲示板で同事件に関するスレッドが乱立したが、犯人は犯行の前からそのような事態を狙っていたのだ。
こうした犯人の意図を、『Vox』は「
ニュージーランド銃撃犯のマニフェストが示す、白人ナショナリズム拡散の図式」という記事で分析している。
“報道によれば、銃撃犯は74ページのマニフェストを残していた。模倣犯を鼓舞するため、こういった大規模な暴力の扇動者がしばしば残す文章だ(そのため、ここではリンクを貼らないことを選んだ)。
しかし、文脈を理解するためには価値のある文章だ。マニフェストのなかには、近年アメリカや世界各国で起きたほかの銃撃事件や未遂に終わった事件の犯人と似た考えが記されている“
同記事は今年2月にアメリカのメリーランド州で起きた銃撃事件の犯人との類似点を指摘している。同じような単語や言い回しを用いて、同じような人物(ブレイクビク)を崇めていたというのだ。
また、こういった文章があらかじめ拡散されることを狙って書かれていることも強調している。
“歴史的に見ても、テロリストのマニフェストは彼らの思考や犯行に至るまでの計画を正しく捉えたものではない。テロリストのマニフェストの主な意図は、どのようにテロリストになったかを理解させるためのものではなく、新たなテロリストを生むことなのだ”
マニフェストは犯人が「普通の白人」であり、「白人がいるかぎり、侵略者に土地を奪われることはない」といった主張を繰り返しているだけで、犯行に至った経緯や本人のバックグラウンドは明らかにされていないというわけだ。
同記事は、犯人がより注目を浴びて読者の意識を惹きつけるため、自身が過激な思想に染まったキッカケとなったオンライン上の集団に、あえて“餌”を撒いているとも指摘している。
マニフェストに著名なユーチューバーやアメリカの右翼政治家、テレビゲームなどの名前を挙げているのは、そのためだという。実際、メディアの報道やインターネット上の投稿を見ても、こういった名前に反応したケースは少なくない。
このように、テロリストの主張を拡散することを避けるため、マニフェストの詳細については言及を避けるメディアがほとんどだが、注目したいのは、同マニフェストのタイトルになっている
『The Great Replacement』という陰謀論だ。
これはヨーロッパの白人社会がアラブや中東、北アフリカの移民によって侵略されるという内容で、EUに代表される政府機関が、移民政策の導入で意図的に白人社会を滅ぼそうとしているという反エリート主義、人種差別的かつ被害妄想的な陰謀論だ。
その起源は‘70年代まで遡り、‘12年には同名の書籍も出版されている。今回の銃撃犯のみならず、インターネット上のヘイトサイトなどにも大きな影響を与えていると指摘するメディアも多い。
昔ながらの陰謀論とSNSによる拡散という組み合わせは、今回の銃撃事件を象徴するキーワードであろう。