なぜ創業87年の電線メーカーは「キャビア作り」を始めたのか? 老舗中小企業の生存戦略

一過性で終わらないビジネスに育てる

 チョウザメは8、9年をかけて卵を育てる。それだけ長い時間をかけて熟成されるからこそ、栄養豊富でうま味が凝縮されるのだが、その間に死んでしまえばすべての努力が水の泡となる。しかも卵を採れるのは一度きりだ。  しかも卵を育てるのはメスだけ。全体の半分に過ぎない。1000匹の稚魚のうち採卵できるのは500匹ということになる。だが一定数は死んでしまうため、おおむね300匹程度。生産性はあまり高くないように見える。  それだけではない。ようやく卵を取り出してみたら味がまずかった、ということも考えられる。だが金子コードでは“1年生(稚魚)から育てたキャビアの味”を知ることはできない。卵が育つにはまだ少なとも4、5年かかるからだ。だからこそ気になる。うまいのか、それともまずいのか。 「“1年生から育てているチョウザメ”のキャビアの味はまだ確認できていませんが、転校生としてある程度育ったチョウザメを数カ月、生け簀で飼った後に採ったキャビアを食べてみると、これがうまいんです。最高の水で育てると、数か月でも味がよくなることがわかりました」  同社では、昨年から「HARUNO CAVIAR VALLEY(春野ハルノキャビアヴァレー)」の生け簀で育てたチョウザメからキャビアを採取している。塩分は約3%。熱処理はせず、保存料も一切使用しない。見た目は透明感のあるモスグリーンで、その味は濃厚なバターやチーズのようにクリーミーでうま味の濃い美味しさだとか。  まだ少量ながら、東京や静岡のホテルやレストランを中心に業務用として販売を開始した。一部の高級レストランでも取り扱われているという。  だが本格的に量産が始まるのは養殖1年生がようやく一人前になる2023年を予定している。本格スタートした時には、どれほどの売り上げを見込んでいるのだろうか。 「まずは投資した2億円の回収が目標ですが、その後どれほどのビジネスになるのかは未知数です。ただ電線コードやカテーテルに比べて、利益率は格段に高く、成功すれば高収益事業になっていくものと見込んでいます」  2023年までにいろいろな可能性を模索し、一過性に終わらない根強いビジネスに育てていきたいとしている。

キャビア以外にも活用できるチョウザメ

 金子コードでは養殖施設に「HAL LAB(ハルラボ)」という「研究所」との名を冠したゲストハウスを併設している。そこではチョウザメとキャビアに関する講座を開くほか、チョウザメに触れることができ、オリジナルのキャビアを作る体験もできる。最後はチョウザメを使った料理も味わえるという。 「HAL LAB(ハルラボ)には一流のレストランのシェフの方々やホテル関係の方をお招きして、ハルキャビアをご紹介するとともに、参加者に意見をうかがったり、ハルキャビアを使った料理などをご提案いただいたりと、みんなで一緒にハルキャビアを作っているんです」  世界でとれる100種類以上の塩を用意し、一流の料理人たちにおいしいキャビアを作る工程も提供しているという。  チョウザメは、捨てるところがないと言われる魚だ。その身はうまく独特の食感がある。ひれにはコラーゲン等がたくさん含まれ、栄養満点の食材としても知られる。皮をなめして、アクセサリーに活用される。  また美容と健康によい成分が含まれていることでも知られており、金子コードも昨年、チョウザメの成分を含んだ化粧品の製品化にも着手しており、近く発売する予定だという。今後、チョウザメを活用したさまざまな製品を開発して行く方針だという。
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