なぜ創業87年の電線メーカーは「キャビア作り」を始めたのか? 老舗中小企業の生存戦略

金子コードによるキャビア

金子コードによるHALCAVIAR(ハル・キャビア)

 創業87年の歴史を誇る電線メーカー(本社・東京都大田区)、金子コードが2017年からキャビアの販売を開始し、食品界の間で話題を呼んでいる。  2月に東京ビッグサイトで開催された「国際ホテル・レストラン・ショー」や3月5日から幕張メッセで開催された「FOODEXJAPAN2019」に「HALCAVIAR(ハル・キャビア)」のブランド名でブースを出展。一流レストランのシェフなどの料理人らを含めた食品業界からも高い評価を得たという。いったいなぜ、大田区の電線を作っていた製造業が、本業とは縁のなさそうなキャビアづくりに乗り出したのか。同社3代目社長の金子智樹氏にその理由を聞いた。

「”本物”のキャビアは驚くほど旨い」

「日本人に本当においしいキャビアの味を知ってほしい。そんな思いでキャビア事業を始めました」  金子コード3代目社長、金子智樹社長はそう語る。
金子コード社長・金子智樹氏

金子コード社長・金子智樹氏

 キャビアといえば、世界三大珍味の一つ。チョウザメの卵を加工した高級食材だ。日本人の多くは、瓶詰め加工された黒い粒々を思い出す人も多いだろう。  しかし採れたてのキャビアの色は透明感のあるグレーやモスグリーンをしており、原産国ではキャビア本来の味が楽しめるよう低い塩分(3~5%)で処理され、フレッシュな状態で食されている。  だがフレッシュなキャビアは約3週間しか保存できない。そのため日本には輸出されず、したがって日本国内では本来のおいしいキャビアにお目にかかれないのだ。  日本に海外から入ってくるキャビアは、長期保存が効くよう低音殺菌処理が施されていたり、塩漬処理がなされたものだ。塩分濃度が高いため(6~10%)、キャビア本来の味は消えてしまっている。  そこで金子コードは、そんな日本人のために、原産国に負けないフレッシュなキャビアを提供しようとチョウザメの養殖に乗り出したというのである。それにしてもなぜ電線メーカーが、キャビア作りだったのか。

三代目社長の道楽とは言わせない

 同社の創業は1932年。金子社長の祖父が電話機用の電線を開発し、生産を始めたのが始まりだ。戦後の電話機普及の波に乗り、事業は成長。電電公社に納入される電線の製造認可を得て、事業を拡大する。電話機の「くるくる」(カールコード)などを作っていたのだから、その成長率たるやすさまじいものだった。その後、電話機製造の主役の座が家電メーカーに移ると、医療用カテーテルチューブを新たに開発。現在、供給量で国内トップだ。  年間売上高は45.5億円。浜松に工場があるほか、中国の上海に営業本部を置き、蘇州に製造工場を持つ。社員数は317人。社名の通り、「コード」の製造を主体に成長を遂げてきた優良企業だ。  そんな長い歴史を持つ大田区の製造メーカーがいったいなぜ、キャビアなのか。事前情報によると、金子社長は青山学院大学卒で大のワイン好きだという。これまでに世界のワインを飲み歩き、2013年には自らソムリエの資格を取得。  もしや単なる道楽なのか。ストレートに尋ねたところ、金子社長はきっぱりと否定した。 「道楽でやっているんだろうという人もいますが、私はこの事業を、社運を賭けた新規事業として真剣に取り組んでいるんです」
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コードレス時代突入で迎えた会社の苦境
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