3月に入って写真が公開されると、また一つ重大な問題が起きたのである。海洋エンジニアのホルヘ・ボハニックがマクリ大統領を告訴すべく連邦検事ホルヘ・ディ・レーリョに訴えたのである。告訴の理由は、「ARAサンフアンが漂流するようになったのは国際水域で(活動している企業の)スパイ活動をしている最中に対潜水艦用の機雷あるいは対艦ミサイルの攻撃を受けたからだ」としたのである。
ARAサンフアンが攻撃を受けたという指摘は筆者の
昨年3月2日付けの記事を参照して戴きたい。(参照:
”依然として行方が知れぬアルゼンチン海軍潜水艦に絡んで囁かれる不穏な「噂」”–HBOL)
その後、艦内でのバッテリーの爆発というのが次第に有力説となりつつあったが、それを覆す解明が以下に説明する1枚の写真によって明らかにされるのである。
ホルヘ・ボハニック氏によると、「ARAサンフアンは高張力鋼HY80で35ミリの鋼材が使用されており、戦車の口径88ミリの砲弾にも耐える厚みである。ところが、1枚の写真でその高張力鋼が完全に破壊された箇所がある。それはTNT300 トンでもこの破壊度合いは発生しない。即ち、艦内の(バッテリーによる水素ガス発生で生じる)水素爆発や水深による爆発では起きない破壊度だ」、「唯一この度合いの破壊が生じるのは対潜水艦用の機雷あるいは対艦ミサイルによるものだ」と指摘したのである。
さらに、同氏は「6万7000枚の写真の中でそれに関係した僅か3枚の内の1枚でプロペラの左側に角のようなものが観察される。それは対艦ミサイルのブースターだ。このミサイルは台湾製の雄風(Hsiung Feng)だ。この兵器は追跡が困難なものだ」と指摘したのである。
そして、告訴の結論として、「エネルギー相のアラングーレンはこの水域で石油企業25社が活動しているのを知っている。その隠密調査をARAサンフアンに担当させたのだ。それを唯一許可できるのは海軍の総指揮官であり、アルゼンチンの大統領マウリシオ・マクリである。アラングーレンがマクリにそれを推奨したのだ。即ち、政府のトップがこの事件に直接関与しているのだ」と述べて、マクリを告訴する理由だとしたのである。
尚、この水域は石油と天然ガスがアルゼンチン国内のバカ・ムエルタよりも7倍の埋蔵量を有しているとされているのである。そこをアルゼンチンも開発することを狙っている。(参照:「
Tiempo Argentina」、「
Kontra Info」、「
Info Cielo」
この主張の真偽や告訴がこれからどのように展開して行くは現在のところ不明である。しかし、ARAサンフアンが攻撃を受けたという可能性が1枚の写真によって浮上したのである。この攻撃に至った過程についての解明はまだ憶測の段階にとどまっている。
<文/白石和幸 photo by
Juan Kulichevsky via flickr(CC BY-SA 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身