「低空飛行による騒音が不安」!? 地元・大田区との協議なく進められる羽田空港新ルート

国交省による「オープンスペース型」住民説明会

オープンスペース型説明会

国交省によるオープンスペース型説明会。パネルや機器がズラリと並んでいる

 国交省はこれら不安に「丁寧に」説明するとして、2015年から新ルート直下の各地で住民説明会を開催している。ところがそのほとんどが「オープンスペース型」といって、新ルートについての展示パネルをずらりと並べた会場で、その展示内容に質問がある人が近くで待機する国交省の職員を呼んで個別に説明を受けるというものだ。  筆者も今年2月11日、東京都大田区の京急蒲田駅の改札近くの通路で開催された「オープンスペース型」説明会に行ってみた。  会場ではパネル展示のほか、すでに低空飛行が行われている伊丹空港(大阪府)近くを飛行する飛行機の映像をモニターで見ながら、ヘッドフォンでその騒音を聞ける機材も用意されていた。改札の近くなので、通りすがりの人が展示パネルを見ていた。しかし筆者は「これでは問題意識を住民同士で共有できない」と思った。  国交省の職員が近くにいたので、いろいろと質問を投げかけた。たとえば「この騒音で学校や病院、一般民家への防音対策をするのか?」といった質問には、国交省からは「病院や学校には国の補助で防音工事をする。だが今回の騒音は基準値内なので、一般民家への防音対策は必要ない」との回答を得た。  これが普通の「教室型説明会」ならば、一般民家の住民一同がその回答に「えー!」と憤るところだが、オープンスペース型では、国側の回答を筆者の他には誰も耳にすることがない。少し離れたパネルでも誰かが質問をしていたが、同様に、そのやりとりを筆者が知ることはできなかったのだ。
国交省の職員

オープンスペース型説明会では、質問がある住民には国交省の職員(赤い腕章の人物)が個別対応する

 そんな説明会もこの春で終了予定だ。となると、説明会の終了後には国交省にはどんな手続きが必要なのだろうか。  このことを尋ねると、国交省の職員は「飛行機に電波を出す航空保安施設を整備します。そして小型機による検査飛行でその電波を受信できるかを確認。あとは、実際に使う航空ルートなど必要な恒久的情報を国が出す航空路誌(AIP)に収録するだけです。できれば東京オリンピックまでには収録したい」と回答した。  つまりあとは国交省次第で、羽田増便にゴーサインが出されるということだ。

羽田空港の運用について、国は大田区との協議を無視していた?

覚書

ルート変更する場合は、国と大田区とが協議しなければならないということを明示した覚書

 その説明会の現場にいたのが奈須りえ議員だった。奈須議員は、手に書類を持って国交省職員に何かを訴えている。筆者が近づくと、2010年4月28日に出された、大田区長が国交省に宛てた覚書(「(羽田の)D滑走路供用後の東京国際空港の運用について」に対する回答)を見せてくれた。  そこに書かれていることは、大ざっぱに書けば ・飛行機は大田区上空を飛ばない ・陸に近い、A滑走路とB滑走路を同時に使わない。 ・深夜と早朝にはAB滑走路を使わせない。  といった内容だ。ここで最も大事なことは、これらの事項を「変更しようとする場合は、(国は)大田区と協議すること」と明記されていることだ。  奈須議員はこの点を国交省の職員に問い詰めていた。それまで他の質問にはスラスラと答えていた職員は、奈須議員から「覚書に『大田区と協議すること』と書かれていますが、協議はしているんですか?」と尋ねられると、途端にしどろもどろになった。 「え? あっ。えー……それちょっと見せてください」  覚書に目を通した職員は、数秒後にやっと「確認させてください」と答えただけだった。少なくともこの職員は覚書の存在すら知らなかったと思われる。そして奈須議員の記憶でも、国と大田区とがこの件で協議したことはない。
奈須りえ区議会議員

大田区の奈須りえ区議会議員(左)が覚書を見せながら、国交省職員(右)に「ルート変更に必要な大田区との協議をしているの?」と質問

 そもそも、この覚書には歴史的な背景がある。かつて羽田空港は今の場所よりも内陸にあって、大田区の市街地に隣接し騒音問題に悩まされていた。そこで1973年、大田区議会が「安全を確保できない限り空港は撤去すること」と毅然と決議し、国が羽田を今の沖合に移したという経緯があるのだ。  つまり手続き的には、来年までに「陸から入って陸に出る」ルートを実現させたい国にすれば、大田区との協議なしに新ルートは実現しないことになる。だがそれを無視していたということなのか。
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区サイドの曖昧な回答
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