神奈川県内の病院で胚培養士として働く女性
体外授精などの生殖補助医療を利用する人は増加傾向にある。日本産科婦人科学会の調査によると、2016年には過去最多の5万4110人が体外受精で生まれたという。およそ18人に1人が体外受精で生まれた計算になる。
生殖補助医療の現場を担うのが「胚培養士(はいばいようし)」と呼ばれる人々だ。どのような仕事をしているのか、神奈川県内の病院で働く20代の女性に話を聞いた。
不妊治療には、様々な方法がある。排卵日を診断して性交を行う「タイミング法」や薬物で排卵を起こす「排卵誘発法」のほか、人工授精や体外受精、顕微授精などがある。
人工授精は、採集して調整した精子を子宮内に注入する方法だ。精子や卵子に問題がなくても、すぐに妊娠したければ実施することができる。
「精子の中には、前に進まないものや形のおかしいものが混ざっています。遠心分離機にかけることで良い精子と悪い精子を分け、元気な精子だけを集めます。これを直接子宮内に入れるんです。性交よりも妊娠率が上がります」
排卵に合わせて行うため、女性は約2日に1度のペースで通院し、排卵がいつ起こるのかをチェックする。排卵日には、男性は精液を採取する必要がある。
「私の勤めている病院では、精液を採取後2時間以内に持ってきてもらうようにしています。旦那さんが自宅で採取して奥さんが病院に持ってくることもありますし、男性が出勤の途中で病院によって採精室で採取することもあります」
それでも妊娠しない場合には、体外受精や顕微授精を行うこともある。
「体外受精では、採取した卵子を培養液に浸し、そこに精製した精子を入れます。私たちはこれを『ふりかけ』と呼んでいます。この方法では、精子と卵子が出会うのを補助するだけで、精子自体は自力で卵子に入っていきます。一方、顕微授精では、手作業で精子を卵子の中に直接入れます。失敗すると卵子や精子を壊してしまうこともあります」
人工授精では、排卵日に合わせて女性が来院し、男性が精液を採取する必要がある。体外受精や顕微授精の場合も女性は検査や採卵のために通院しなければならない。仕事との両立に苦心する人も多い。
「多くの人は何とか仕事と治療を両立しています。排卵日には午前休を取って来院するといった工夫をしているようですね。ただ排卵日がいつくるかは前もってわかりません。医師が突然『じゃあ明日やりましょう』と言うことも。突然休んでも大丈夫な環境でないと難しいかもしれません。なかには不妊治療のために仕事を辞めてしまう人もいます」
採取した精液を検査するのも胚培養士の仕事だ。
「妊娠するためには、精液の中にある程度の精子が含まれていなければなりません。精子の数は私たちが目視でカウントしています。中には、精子が全く見つからない人も……。また、ぐるぐる回っているだけのものやその場で動かない精子もたくさんいます。そこで、きちんと前に進み、卵子にまでたどり着ける精子がどれくらいいるのかも数えるんです。さらに精子には頭の部分が大きすぎるなど奇形のものもあります。誰の精子でも半分近くはきちんと動かなかったり、形がおかしかったりしますね」
たとえ夫の精子の状態が悪くても、妻の方が負担は大きい。何度も通院して検査をしたり、採卵したりする必要があるからだ。女性の中には「旦那にも痛い思いをしてほしい」と愚痴をこぼす人も少なくないという。