時代に火をつけた男キース・フリント急逝。ジャンルを超えた野獣を偲ぶ

ハードな音楽ファンの心にも火をつける

 こうした一連の動きは“ビッグ・ビート”と呼ばれ、ヨーロッパや日本を席巻したが、ことプロディジーに関してはそれ以上の勢いがあった。遂には彼らは、これまで“エレクトロ・ミュージック不毛の地”とさえ呼ばれていたアメリカにまで及んだ。  ここでもキースの煽りは効果的だったのだが、この地で彼が煽ったのは、決して多くはなかったエレクトロのファンではなく、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやリンプ・ビズキット、KORNといった、日本でいうとミクスチャー、アメリカでいうとニュー・メタルやラップ・メタルと呼ばれていた、激しい刺激を求めるロックファンだった。  キースは、そうしたハードなロック・ファンたちにさえダンス・ミュージックの魅力に開眼させる影響力を持っていたのだ。そして‘97年に発表されたプロディジーのアルバム『ファット・オブ・ザ・ランド』はアメリカの地でさえ全米初登場1位を獲得する、これまでの常識では信じられない快挙まで成し遂げてしまったのだ。  だが、これで憑き物が取れてしまったか、リアム・ヒューレットは長い沈黙に入ってしまった。時間をかけて作った新しい作品にはキースが参加しない、ということもあった。ダンス・ミュージックのサイクルは早く、ビッグビートも過去のものとなった。だが、プロディジーのこじ開けた地平はあまりにも大きく、今やエレクトロ・ミュージックはロック・フェスに撮って不可欠なパートとして存在するようになっている。  プロディジー自身も、‘96~‘97年の魔法のような瞬間はやってこなくはなった。だが、フェスに置いては現在に至るまで絶対的な人気を誇り、「アリーナ・ロッカー」ならぬ「アリーナ・エレクトロ・アクト」として、今や貫禄でヘッドライナーを務めるベテランとなり、アルバムも出れば各国の上位に入る人気をキープ。そこでキースも、これまでどおりに不可欠な役割を果たしていたのだが……。  普段は「紳士的」とも言われた素顔を持っていたキース。それがステージでは、「本能を呼び覚ます野獣」と化していたのだから、もしかしたら燃え尽きた形での死の選択だったのかもしれない。ただ、彼が灯した「火」が音楽界から消えることは、どうやらなさそうだ。 <取材・文/沢田太陽>
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