小川淳也議員による根本大臣不信任決議案趣旨弁明を悪意ある切り取り編集で貶めたNHK

上西充子

「まったくもって理不尽な、反対のための反対」か?

 実際には小川議員は、いたずらに時間をつぶして採決を引き延ばしていたわけではない。いかに統計への政治介入の問題が深刻な問題であるか、いかに人事権を全権掌握した安倍政権が官僚に真実を隠させ、組織のモラルを崩壊させているかを、真摯に説き、モラルの立て直しと、社会の立て直しに向けて、みずからの決意を述べたものであった。  なぜ総理秘書官が統計手法の変更に関与してはならないのか。小川議員はこう語っていた。 ******  森友・加計問題における柳瀬秘書官、そしておそらく現在彼ら全てを統括しているであろう今井政務秘書官、こうした官邸、総理まわりの人物は、すべて法的な職務権限を持たない人たちばかりです。  しかし実際に、その権力と影響力は、絶大です。その職責はひとえに総理を補佐することにあるにもかかわらず、霞が関に向かっては、総理の意を笠に着て、事実上、絶大な権力を行使しているのです。  この国の民主主義、法治国家の基本原則は、すべての権力が国民の信託に由来するところから始まります。同時に、全ての権限は、国民の信託に由来する国会において認められた法律に基づき、具体的な職務権限として規定され、行使されています。  同時に、この法律に基づく職務権限は、それに対する説明責任と、結果責任を、セットとして併せ持っています。  つまり、権限には責任が伴い、責任のないところには権限はなく、責任なくして権限なし、権限なくして責任なし。これが原則であり、当たり前のことです。 ******  毎月勤労統計の調査手法が官邸の介入により不透明な形で変更され、前年からの実際の賃金の変化の動向が把握できない状況のままに予算案が可決されようとしていることに対しては、小川議員は、こう語っていた。 ******  根本大臣、賃金は与党の議員も言う通り、バーチャルで上がっても何の意味もありません。数値だけ上乗せされても、国民生活は全く改善しないのです。  一刻も早く、統計委員会が重視をし、連続性の観点からも景況判断の決め手となる、サンプル入れ替え前の継続事業所の賃金動向、すなわち「参考値」をベースとした実質賃金の水準を明らかにすることを、求めるものであります。 ******  これらの小川議員の指摘は、自民党の丹羽議員が言うように、「まったくもって理不尽な、反対のための反対」だろうか? NHKのニュース制作者は、この小川議員の指摘を聞きながら、丹羽議員が言うように、小川議員の演説が、「まったくもって理不尽な、反対のための反対」だと受け止め、その丹羽議員の指摘を報じたのだろうか? そうではなく、それぞれの主張を公平・公正に並べたのだというのなら、小川議員の指摘の要点をなぜ紹介しなかったのか。

真に闘うべきは、国民の政治への諦め

 このようなNHKの報じ方には、ツイッター上では批判の言葉があふれた。しかし、NHKだけを見ている人には、このNHKの切り取り編集の悪質さは伝わらないだろう。野党議員が国会質疑の時間を無駄に浪費している、そのように受け止めただろう。  そう考えると、なんとも言い難い思いに駆られる。しかし、そうやって政治にうんざりして関心を失うことこそが、政府・与党がねらっていることなのだろう。  だから、小川議員がこの趣旨弁明演説で指摘した2つのことを、心にとどめておきたいと思う。  一つは、最大の闘いの対象は、国民の諦めだ、という指摘だ。 ******  しかし、一連の不正統計に対する国会審議を通して、私ども野党議員に対して、多くの激励や励ましをいただくことを通して、国民は正直な政治を求めている、国民に真に寄り添う政治を求めている、そのことを強く確信したのです。本当にありがたいことでした。  最大の闘いの対象は、実は安倍政権でもなければ、自民党でもない。私自身を含め、真に闘うべき対象は、この国民の諦めなのではないか。  国民とともにこの諦めと闘うために、まずは私たち自身が確固たる意志を持って、自らを励まし、自らの絶望やあきらめと敢然と闘い続け、そして常に国民とともにある、その姿勢を示し続けなければなりません。 ******  今の政治状況に対して、政治家が諦めないこと。そして国民が諦めないこと。国民が諦めずに政治家を励まし、まともな政治を求め続ける。そして政治家が諦めずに自らを励まし、敢然と闘い続ける。その循環を維持し発展させていくこと。それが大事だ。  もう一つは、国民と政治家の相互の信頼を取り戻すことが課題である、という指摘だ。 ******  小手先の改革ではどうにもならない構造問題が、この国の未来には横たわっています。  そして、わたしたちが真に国民の負託に応えるために、血みどろになる覚悟でその課題に向き合うために、私たちに求められるのは、国民に対する信頼であります。  政治家が国民に信用されていない。しかし、政治家もまた、国民を信用しきれてない。この狭間を、この隙間を埋めなければ、小手先でない正しい改革は、成し遂げられません。 ****** 「このたび野党諸君が提出した決議案は、まったくもって理不尽な、反対のための反対。ただの審議引き延ばしのパフォーマンスであります」と語った自民党の丹羽議員は、本心からそう思っていたわけではないだろう。そう国会で語り、それをNHKに報じさせることによって、「野党はパフォーマンスばかり」と国民に思わせる、そのために意図的にそう語ったのだろう。  そこには国民に対する信頼など、ない。それに対し、小川議員は、政治家に対する国民の信頼を取り戻すことと、政治家が国民を信頼すること、その双方の課題を成し遂げなければならないと指摘している。それは簡単なことではない。しかし、目指すべきことだ。 <文/上西充子 Twitter ID:@mu0283> うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。
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