右上テロップ:
「新年度予算案 与野党攻防 ヤマ場」
●アナウンサー:
新年度予算案をめぐり、激しさを増す与野党の攻防。
立憲民主党など野党6党派は、統計問題の審議が不十分で、新年度予算案の採決は認められないとして、根本厚生労働大臣の不信任決議案を提出。
(映像:余裕の笑顔の根本大臣)
(映像:登壇する小川淳也議員)
●アナウンサー:
野党側が追及に用いたのは、ネット上に投稿された統計不正を皮肉った書き込みでした。
(映像:原稿に目をおとして発言中の小川議員)
(テロップ「立憲民主党の会派に所属 小川淳也氏」)
●小川淳也議員
おかしいな それでもいいや ほっとうけい(統計) (ヤジ)
お上から 鶴の一声 好景気 (ヤジ)
官邸の 意のままになす 数の技 (ヤジ)
(コップの水を飲む小川議員)
(再び、コップの水を飲む小川議員)
●アナウンサー:
途中、何度も水を飲む姿に、議長は
(映像:水差しの水をコップに注ぎ、飲む小川議員)
●大島理森衆議院議長:
小川君に申し上げます。少し早めて結論に導いてください。
(映像:大島議長が議長席で上記のように発言する中で、それに背を向ける形でコップの水を飲む小川議員)
(映像:大島議長の発言に対し、拍手する議場の与党議員たち)
●アナウンサー:
趣旨弁明は、2時間近くに及びました。
(映像:苦笑いしつつ、原稿を手に持って振る小川議員)
(映像:うんざりした表情で頬杖をつく自民党の橋本岳議員)
●アナウンサー:
これに対し、与党は
(映像:深く礼をしてから、原稿を読み上げる丹羽議員)
(テロップ「自民党 丹羽秀樹氏」)
●丹羽秀樹議員:
このたび野党諸君が提出した決議案は、まったくもって理不尽な、反対のための反対。ただの審議引き延ばしのパフォーマンスであります。
国民の誰ひとりとして、このような無駄な時間の浪費を望んでいないことに、どうして気がつかないのでしょうか。(歓声と拍手)
●アナウンサー:
不信任決議案は、自民・公明両党と日本維新の会などの反対多数で、否決されました。
(映像:議場を出たあとの根本大臣)
●根本厚生労働大臣:
私の今までの職務遂行に対して、ご理解をいただいたものと受け止めております。しっかりと組織のガバナンスを確立していく。
このNHKの映像が、どのように悪意に満ちていたか、簡単に解説しておこう。
第一に、上にも述べたように、
小川議員自身の言葉が、一つも紹介されなかった。紹介されたのは、冒頭の「つかみ」部分で、総務省の統計標語の募集に対してインターネット上にあふれた統計標語のパロディーだけだ。まるで小川議員が、誹謗中傷だけで無駄に時間を埋めたかのような印象を与えるものだった。
第二に、
小川議員は無礼な議員であるかのような印象を与えた。実際には
趣旨弁明の開始時に、大島議長に対しても議場の議員に対しても深く一礼しているのだが、それは紹介されず、登壇のシーンに続いて、原稿を読み上げているシーンが流され(アナウンサーの音声がかぶせられ、何を語っていた場面かは読み取れない)、一礼した場面は紹介されなかった。それに対し、自民党の丹羽議員については、議場の議員に対して深々と一礼するシーンが流された。
一礼する小川議員(衆院インターネット審議中継より)
「途中、何度も水を飲む姿に、議長は」というアナウンスもそうだ。いたずらに水ばかり飲み、無駄に時間を費やしているかのような印象を与えるものだった。また、引いたカメラで、水を飲む小川議員と、その背に向かって注意する大島議長、というシーンをとらえることにより、無礼な議員、という構図を示した。
実際には、大島議長が小川議員に注意したのは、
1時間48分のうちで、二度だけだ。上記の見出しの(20)の消費増税に触れた場面で、この「少し早めて結論に導いてください」という発言があった。(
国会PV映像:1時間17分〜)
さらに、(27)の結論のところで、
「(与党の)不規則発言に答えず、進行してください」という発言があった。その二度だけだ。(
国会PV映像映像:1時間42分〜)
しかし、大島議長の「少し早めて」という注意に続いて、その注意に拍手で応える与党議員を映し出すことにより、議長も議員もうんざりしている、という印象を与える描き方だった。
なお、実際にどのタイミングで水を飲んでいたのかは、犬飼淳が下記の記事で検証し図解している。
●【NHKの真っ赤な嘘】2019年3月1日小川淳也議員による根本厚労相不信任決議案趣旨弁明を伝えるニュースウォッチ9|犬飼淳 / Jun Inukai @jun21101016|note(ノート)
これによれば、
演説の後半に5回、水を飲んでいる。1時間48分の間に5回にわたって水を飲むことは、犬飼も指摘するように、不自然なことではない。水差しが用意されている以上、無礼なことでもない。大島議長も、水を飲む行為に対して注意したわけではない。むしろ、演説の途中に割り込むことを避け、水を飲むタイミングで発言したものと考えられる。
第三に、苦笑いしつつ原稿を振りかざした小川議員の様子に
「趣旨弁明は、2時間近くに及びました」とアナウンスをかぶせ、うんざりした様子の自民党の橋本岳議員の姿を映し出した場面は、いたずらに時間をつぶしてヘラヘラと小川議員が笑っているかのような印象を与えるものだった。
実際には原稿を振りかざした場面は、(27)の結論に至る直前だ。本当はまだ、あと4割ほども語り残した原稿があった(※先述したように小川議員が自身のブログで公開している)。しかし、無念の思いでそれを読み上げるのを諦めた、その苦笑いをとらえたものだった。この場面は、実際は、こういう場面だった。(
国会PV映像映像:1時間42分〜)
******
●小川淳也議員:
本来、ここで(と、苦笑いしつつ原稿を振りかざす)。・・・・・・まだまだ原稿がありました。
●大島理森衆議院議長:
不規則発言に答えず、進行してください。
●小川淳也議員:
本来ここで、根本厚生労働大臣が所管する社会保障改革の、その大切さと、そしてその難しさと、そしてその背景にある日本の人口動態の激変と、そしてその背景にある、世界的な経済社会環境の変化と、これについて最後に議論し、党派を超えて、党派を超えて、皆様の理解を求めたいと思っていました。
しかしながら、諸般の情勢を私なりにしっかりとわきまえ、最後の結論に至りたいと思います。
******
無駄に時間を費やしつつ、ヘラヘラと笑っているかに見える小川議員の表情は、実際は、
1時間半を超える演説で疲労困憊しつつ、まだ語りたい内容を無念の思いで断念した、その表情だった。
第四に、自民党の丹羽議員による「このたび野党諸君が提出した決議案は、まったくもって理不尽な、反対のための反対。ただの審議引き延ばしのパフォーマンスであります」との発言は、
小川議員自身の発言が一言も紹介されていなかったため、説得力をもつもののように紹介されていた。
適切に小川議員の演説の要点をNHKが紹介していれば、この
丹羽議員の発言こそが、「まったくもって理不尽な」、小川議員の指摘に対する「反対のための反対」であり、小川議員の指摘が当たらないかのように印象づけるための「パフォーマンス」であったことが、視聴者に理解されただろう。しかし、そのようには紹介されなかった。
第五に、自民党の丹羽議員による「国民の誰ひとりとして、このような無駄な時間の浪費を望んでいないことに、どうして気がつかないのでしょうか」という発言。筆者はこれを、野党議員を支持する国民を排除する発言と受け止めたが、
NHKは「誰ひとりとして」という排除的な発言を、もっともな指摘であるかのように紹介した。
第六に、小川議員の趣旨弁明演説の前に
根本厚生労働大臣の、余裕の笑顔のような表情を映し出し、最後にも根本大臣の発言を紹介することによって、小川議員の趣旨弁明演説はなんら根本大臣に「刺さる」ものではなかった、という印象を視聴者に与えた。