photo by Fibonacci Blue via flickr (CC BY 2.0)
米国で「
最低賃金15ドル」の流れが加速している。
この動きは2014年にワシントン州シアトル市で最初に始まり、その後カリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、マサチューセッツ州、ワシントンDCと、大都市を有する州や地域に次々と広がり、今年2月中旬にはシカゴのあるイリノイ州が、州としては5番目の時給15ドルへの引き上げを決めた。さらにワシントンDCに近いメリーランド州が法案の審議をスタートさせ、ノースカロライナ州でも24年までに15ドルまで上げる法案が提出されている。今年1月の時点で最低賃金を15ドルにした州、市、地域は、全米で計43か所に上るという。
最低賃金15ドルの動きが始まった頃は、経営者側、特に中小企業が人件費の増加に懸念の声を上げ、労働者側は労働者側で、時給が上がる分労働時間を削られることを心配する向きもあった。だが開始からこの4年間でさまざまな実態調査が進められ、プラス面も大きいと認識されるようになり、15ドルへの流れが加速した。
例えば
ニューヨーク・タイムズ紙は2月21日付で、2014年当時に8~9ドル程度の最低賃金で働いていた移民男性の当時と現在の生活ぶりの差を紹介している。
時給9ドル以下で働いていた当時24歳のその男性は、カリフォルニア州エメリービルという街で母親と2人の兄弟の4人でワンルームのアパートに住み、夜10時から朝6時まで24時間営業のマクドナルドで、朝8時から午後4時までは派遣で働くというフルタイムの掛け持ち勤務を休みなく続けるという生活を続け常に疲労が溜まって体はボロボロ、それでも最低限の生活がやっとだった。しかし最低賃金が大幅に上がった今、長時間労働からは解放され、健康状態は格段に上がったと話している。
昨年7月から最低賃金が時給15ドルとなったサンフランシスコ市とその周辺にある市ででも、
労働者の生活環境に大きな変化が出ているというカリフォルニア大のマーゴット・クシェル博士のコメントも同記事では紹介されている。
「精神的安定度は飛躍的に向上し、眠りの質も向上し、食生活が健康的なものに変わる。
最低賃金を1ドル上げることが人々の命を救うことになる」
またジョージア工科大のリンゼー・ベリンジャー助教授が2017年に行った調査によると、
最低賃金が1ドル上がると子どもに対するネグレクトが10パーセント減少するなど、家庭内での子どもに及ぶ影響も大きいことも言及されている。
昨年末にシアトルにあるワシントン大学がまとめた調査によると、最低賃金の上昇はすでに職に就いている労働者にとっては、確実に収入増につながっているという。
ある程度熟練し賃金が中~上級レベルの労働者の場合は、賃金引上げによって労働時間を削られるという現象はみられるものの、それでも
週平均19ドルの収入増。
労働時間減少によりある者は空いた時間に別の仕事を入れる、またある者は家族と過ごしたり余暇に費やしたりすることが可能となり、より豊かな生活をするようになっている。また今年初めに発表された米国公的機関の労働調査によると、
最低年俸の引き上げは就業者の減少にはつながらないとの結果も出ている。(参照:「
SLATE」)