国家警察が捜査するのと併行して、スペイン中央情報局も調査に乗り出している。疑問とされているのは、犯行グループが何者かということと、なぜ北朝鮮大使館に侵入してコンピューターなどを持ち去ったのかということである。
この疑問を解くのに米国のランド研究所(Rand Corporation)のブルース・ベネット研究員は、「それは北朝鮮の人間による仕業だ」と指摘している。それも2つの可能性のどちらかの理由によるものだとした。
ひとつは、在スペイン北朝鮮大使館の前大使キム・ヒョク・チョル(Kim Hyok Chol)にとって或いは同政府にとって大事な情報書類或いは保管情報を残してしまい、それを取り戻すために今回特殊部隊の一員にその押収をさせようとしたという憶測である。
この憶測が生まれたのは、ある背景がある。ラホイ前首相の政権時に、北朝鮮が執拗に日本の上空を通過する弾道ミサイルを発射させたことに対して、スペインは欧州連合の姿勢に沿う形で遺憾の意を表明。結果、ペルソナ・ノン・グラタだとして当時の大使キム・ヒョク・チョルの国外退去を当時のダスティス外相が要請した。それが余りに急な要請であったためにキム・ヒョク・チョルがスペインを去る前に身の回りの整理を十分にできないままスペインを離れた可能性があるということだ。
キム・ヒョク・チョルは現在朝鮮労働党委員長の金正恩から信頼されている人物で、スペインを去った後つい先日ハノイで行われた金正恩とトランプ米大統領の会談の準備をしていた人物であった。金正恩の側近のひとりになっているということから彼に纏わる事項はどれも重要となって来るのである。(参照:
「El Confidencial」2月28日付、
同2月27日付)
もう一つの可能性として挙げられているのも、キム・ヒョク・チョルに絡んだことだ。
金正恩がこの10年余りの間に彼の父親の時からの側近らを解任。その数は70人以上だという。そして年齢的に若い人たちを側近にしている。そんな中、これからもキム・ヒョク・チョルを信頼するに値する人物であるかを確かめるために、彼の個人情報がスペインに残されているとして密使を送ったのではないかという憶測である。(参照:
「El Confidencial」2月27日付、
同27日付)
同大使館を襲った人物が前述した2台の車に乗って大使館から突如姿を消したわけであるが、その車の中に最初に尋問しようとした警官に答えるために玄関で応対した人物がその車の中に乗っていたことが同警官によって確認されているのである。そこから、今回の犯行は同じ北朝鮮の人間によるものであるというのがそれで裏付けされるのである。(参照:
「El Confidencial」2月28日付)
なお、警察は同時に韓国もこれに関係しているのではないかと見て、在マドリードの韓国大使館にも捜査の手を伸ばしているという。(参照:「
Voz Populi」)
ちなみに、北朝鮮がスペインに大使館を開設した理由は特に観光産業についての習得するためだという。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身