誰も不幸になるため、我慢するために結婚するのではない。「結婚は我慢だ」と考えている方がいれば、それは、時代錯誤としかいいようがない。
ところが、夫のモラハラに苦しめられている妻が、まわりに相談しても、「我慢が足りない」「男なんてそんなもの」「長男だと思いなさい」「子どもが可哀想」などとアドバイスを受けることが少なくない。
その上に、多くの妻たちは、夫に洗脳され、「夫を怒らす自分が悪い」と思い込んでいる。その妻たちが、一歩踏み出し、法律事務所へ相談に行くのは、とてもハードルが高いことだと思う、
さらに、多くの妻たちは、夫よりも、経済的に弱い立場にある。離婚は貧乏を意味することも多い。子どもから父親を奪ってはいけない、簡単に離婚してはいけないという思いが強い妻も多い。妻たちは、夫に洗脳され、まわりから諭され、我慢に我慢を重ね、これ以上我慢できない限界点まで来て、ようやく法律相談に訪れる。相談に行ったことが夫にわかったら、どれほど怒られるか、びくびくしながら来るのである。
離婚を求める妻の多くは、「我慢が足りない」のでも、「わがまま」な訳でもない。やむにやまれず、離婚に向けて一歩を踏み出すのである。
重要なので繰り返す。ここまで妻が追い込まれながら、多くの夫は、妻の苦しみ、悲しみを理解していない(できない)。
私は、モラ夫を「男尊女卑を背景に妻に対する支配を確立しようとする夫」と定義している。
「支配者である」夫は、しばしば、法廷で、「別居の前日まで、夫婦仲がよかった」と証言する。本当に、そのように感じているのだろう。
他方、妻は、我慢に我慢を重ねて、これ以上我慢できないところまで来ての別居である。なぜ、これほどまで夫の認知が歪むのか。妻に君臨し、一家の主(あるじ)として、妻を従属させる形に満足し、よい家庭、よい夫婦関係と認識するのではないか。
仮に妻が泣いて夫の横暴に抗議しても、「女は感情的でダメだ」などと切り捨てて顧みないのではないか。
妻を追い込んでも誰も幸せになれない。パートナーの不幸に君臨しても決して幸せはなれない。そして、妻に逃げられれば、夫も不幸になる。こんな簡単なことがなぜわからないのだろうか。
私は、何人もの離婚する妻たちを見てきて知っている。
妻たちは、別居から日が過ぎていくに従い、徐々に本来のカラー(色)を取り戻していく。相談当初の輝きを失った妻たちは、ピンクやオレンジなどの本来のカラー(色)に戻り、明るく、まぶしくなって、素敵な笑顔になっていく。
マンガ/榎本まみ
【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『
入管実務マニュアル』(現代人文社)、『
国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『
アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(
@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中