消えゆく零細工場を、たやすく「自然淘汰」と言って良いものか? <競売事例から見える世界28>

大企業の、零細工場に対する扱いは過酷だ

 下町の工場が大企業からのプレッシャーやライバル企業の工作にも耐え、高い技術力を支柱に偉業を成し遂げていくというドラマに注目が集まっているそうだが、差し押さえ・不動産執行の現場で出会っては消えていくような町工場には、注目が集まることもなければ、同情や救いの手が差し伸べられることもないのだろう――。  最寄り駅は遥か彼方という立地ではあるものの、高速道路のインターからはアクセスが良く、トラックの出し入れにも適した道路に面しているため、付近には町工場が点在している。  これらの町工場を取り巻く一帯には見渡す限りの田園風景が広がっており、ショッピングモールどころかコンビニに出向くのにも一苦労といったエリアだ。  当該物件の町工場はバブル期に事業を拡張したとのことで、届け出のない増改築が確認できる。  その後のバブル崩壊や先代の他界で事業変更を余儀なくされ、現状では掲げられた薬品系の看板とは全く無関係の、プラスチック加工を請け負う工場となっていた。  創業者で先代の長男、2代目として工場の経営を引き継いだ債務者は早くから結婚していたため、工場は債務者とその妻、そして工場をサポートするために進学を諦めた債務者の長男という3人で切り盛りがなされていた。  執行時には既に稼働は停止していたが、それまでは365日24時間に近いフル稼働で工場は可動していたという。  それでも取引先の某大手企業からは相当絞られていたそうで、聞けば家族4人が食べていくのにやっとという毎月20万円程度の実入りしかなかった。  この状況にもかかわらず、該当の某大手企業から受けるプラスチック部品加工に100%依存していたという状況がマズかった。  当該物件の工場があまりに忙しく稼働していることから、某大手企業から「ウチの工場はたいして稼働していないのに、何故この下請け工場だけこんなに忙しいのか」と視察が入ると、担当者がこぼした言葉は次のようなものだった。 「これならウチの工場でも出来るね」  さらなるコスト削減が可能と判断されてしまい、そこからは過去の受注ミスや不良品の発生率など難癖がつけられることとなり、一方的に期末での取引終了が通達されることとなった――。
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どうして簡単に「努力不足」などと言えるのか
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