離婚案件で多くの「モラ夫」と対峙してきた弁護士が、その実態を明かす新連載
今や3組に1組が離婚すると言われ、離婚調停や離婚訴訟は珍しいものではなくなってきた。そんな中近年、あらわになってきたのが妻を精神的・経済的に支配する”モラ夫(モラハラ夫)”の存在だ。
彼らは妻が決死の思いで別離を選ぶと激しく抵抗し、あらゆる手を使って引き戻そうと画策する。彼らの多くは反省がなく、第三者が見ても承服しがたい理屈を通そうとするのが特徴だという。当連載では、そうした“モラ夫”と多く対峙してきた弁護士が、ケーススタディを通じて日本の男女観、夫婦問題に一石を投じる。
弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々」【その1】
私、大貫憲介は30年間弁護士として働いてきた。その間、最も多く扱ってきたのが離婚案件である。平均年間100件の離婚を扱ってきたと仮定すると、30年間で約3000件の離婚案件を見てきたことになる。
その離婚実務から得た知見をお話ししていきたいと思う。
日本の夫婦の典型的離婚案件を説明しよう。50代の夫婦を想定して貰いたい。
ある日、女性相談者が事務所を訪れる。おどおどして自信がなさそうである。なぜ離婚したいか説明を求めると、「息苦しくて・・」と述べる。「離婚理由は?」と尋ねると「性格の不一致です」と消え入りそうだ。
「ご主人に何かご不満は?」と尋ねても、「いえ、主人は経済的に家族を支えてきてくれて、感謝しています……」などと述べて埒が明かない。
「ご主人は、何事も上から目線でご指示するのですか」と聞くと小さく頷く。
「ご主人が家にいると、精神的に不安になりませんか」「ドアの開く音がすると身が縮みますか」と事態を鑑別するための質問をする。
女性は、不思議そうに目を見張る。なるほど、夫婦関係に根本的問題があるようだ。そこで、「今まで気を張ってきたんですね」と水を向けると、下を向く。「結婚してから辛かったことが沢山ありましたね」と声をかけると、涙ぐむ。
弁護士が方針を立てるときは、まず、その案件の具体的な事実経過を詳しく聴取するのが基本だ。離婚案件を受任すると、まず、その女性の辛かった話を一つずつお聞きし、20数年間の結婚生活を振り返っていく。これは、当事者にとって辛い作業であることが多い。
日々、夫に精神的に虐げられ、子どもために我慢してきた、そんな人生をお聞きすることになる。ほぼ全員、琴線に触れるエピソードがあるもので、そのエピソードに触れ、まさにその時に共感を示すと大粒の涙を流す。号泣する方もいる。
そして、離婚条件の相場をご説明し、改めて、離婚するのか、それとも残りの人生を我慢するのかをお聞きすると、「離婚します」と決意は動かないものの、「離婚裁判まですると主人が怒るので円満に解決したい」などと言う。夫が怒ることを心底怖れているのだ。
多くの事案では、別居が先行する。別居後、代理人弁護士として電話すると、夫は、「(弁護士が)妻に別居を勧めたのか」「第三者の介入はいらない」「妻と直接話したい」などと言う。
「奥様は、離婚を希望しています」と伝えると、「そんなはずはない、今までよくしてやった」などと述べる。
「いえ、早期の離婚成立を望んでいますよ」と言うと、「なぜだ!」と叫ぶ方もいる。なぜ離婚を希望しているか、心底理解できていない様子だ。