より具体的に言えば、ある出来事に対する相手の表情に敏感になることで相手と同じ感情を共有できるようになるかも知れません。同じ感情を共有することが出来れば、同じタイミングで奮闘し、同じタイミングで悲しみ慰め合い、同じタイミングで喜び合える、まさに「気の合う仲」になれるのだと思います。
似たもの夫婦という言葉があります。この言葉には色々な意味が含まれていますが、顔にも当てはまります。お互いが時間をかけて同じタイミングで同じ感情を共有することで同じように表情筋が動き、顔が似てくる、そんな考察がなされている研究があります。相手の立場に立って考えているうちに見た目まで似てくるのです。
もう一つ、お互いの関係のプロセスとして観察したいのが笑顔の変遷です。私たちが恋人あるいは想いを寄せる人物と写真を撮るとき、最初のうち、相手は口角が引き上げられるのみの表情をするかも知れません。つまり、愛想笑いです。
しかし、次第に互いを知るようになるにつれて、口角の引き上げに伴い、頬も引き上がり、目じりにしわの寄る表情をするようになるかも知れません。これは一緒に写真を撮ることが(ひいては共にいることが)心から楽しいと感じているからこそ生じている表情です。
愛想笑いから真の幸福表情への変遷は、うつ病患者の病状がよくなるプロセスにおいても観察されており、私たちの気持ちの変化を外から知る重要な手かがりの一つなのです。
相手をよく観ましょう。私はプロフィールにありますように、相手をよく観察していなかったばかりに狂言誘拐事件に巻き込まれてしまいました。
冒頭のような詐欺事件の容疑者はどんな想いで被害女性と接していたのでしょうか。誘拐事件や深刻な詐欺事件に巻き込まれるようなケースは一生に一回あるかないかだと思われますので、相手を疑って観ることは百害あって一利なしです。
しかし、相手のちょっとした想いを汲み取れないことで関係性が悪化したり、互いにわだかまりを抱えてしまうことは、人生において多々あると思います。
相手をよく観ましょう。相手の表情を通じて相手の感情世界を見るとき、相手の内面に触れることが出来るのです。
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。