国境沿いでの新たな壁建設で注目を集めた今回の
非常事態宣言だが、決して珍しいものではなく、非常事態宣言によって大統領がどのような権限を行使できるかを定めた「
国家非常事態法」が1976年に施行されて以来、これまでに出された非常事態宣言は15日のものを含めると
59回にも及ぶ。非常事態宣言の期間は
1年だが、必要な場合には
無制限で期間の延長を繰り返すことが可能で、イラン革命後の1979年に当時のカーター政権がイラン政府の資産凍結を命じた非常事態宣言は現在も有効なままとなっている。これまでに出された非常事態宣言の中で、現在も有効なものは直近のものを含めて
32存在する。
トランプ大統領がこれまでに出した非常事態宣言は3つ。今回は壁の建設を巡って強硬的な手段に打って出た印象が強いため、民主党だけではなく、無党派層や共和党の支持者からも批判の声が相次いでいる。しかし、最も多くの非常事態宣言を出したのはクリントン元大統領で(17回)、オバマ前大統領(13回)、ジョージ・W・ブッシュ大統領(12回)と続く。トランプ大統領が出した非常事態宣言(3回)も加えると、全体の約9割がクリントン政権以降に集中している。
非常事態宣言は諸刃の剣ともいえる。アメリカ社会が大きな危機に直面していると大統領が判断した場合、議会の承認を得ずに即行動に移すことが可能だ。有名なものでは、2001年の同時多発テロ後や、2009年に新型インフルエンザが大流行した際に出されたものがある。非常事態宣言を幾つも出すことは議会軽視や独裁制の一歩になるとして、1976年に国家非常事態法が施行されて以降、長きにわたって歴代大統領は宣言に対して慎重な姿勢を崩さなかったが、クリントン政権以降は頻繁に使われている。
非常事態宣言は大統領令を通じて行われる。大統領令では
各省庁が持つ予算の使い道について、大統領が指示することが可能になるが、追加予算は認められていない。また、
非常事態宣言を出す理由となった問題に関係した法律を新たに作ることも認められていない。過去に2例しかないが、連邦最高裁が大統領に対して違憲という判断を下し、大統領令が無効になる可能性もゼロではない。また、トランプ大統領は15日の記者会見で壁の建設費用として80億ドルを捻出する意向を示し、36億ドルは米軍の基地建設やメンテナンス費用として国防総省にある予算を壁建設にまわす考えだ。仮にそれが実現した場合、
米軍基地の建設やメンテナンスが中止もしくは延期に追い込まれる可能性があり、
職権乱用との批判がすでに出ている。
「国家にとっての脅威」という言葉で国民を煽り、非常事態宣言というカードをきって強引に壁建設を進めようとするトランプ大統領に対し、カリフォルニア州とニューヨーク州はすでに職権乱用で提訴する準備を開始したと複数の米メディアが伝えている。非常事態宣言を出したトランプ大統領だが、法的な問題や議会の抵抗なしに使える予算は13億ドル程度とされている。すでに建てられた壁やフェンスのメンテナンスで予算はほぼ底をつくとみられており、実際には巨大な壁を新たに建てることは夢物語に近い。