勤労統計問題、日雇い労働者の除外の影響をなぜ政府は見ようとしないのか

日雇い除外の影響はベンチマーク更新に隠れている?

 ここまでをまとめると、こういうことだ。毎月勤労統計から日雇い労働者を除外することは、一応、正式な検討を経て決定されている。その意味では、勤労統計について最初に問題が発覚した東京都500人以上事業所の抽出調査やその復元という「不正」とは、性質が異なる。しかし、厚生労働省は定義変更によって日雇い労働者を除外したことについて報道発表資料で明示していない。  また、統計委員会でその影響について懸念が何度も表明され、評価を行うと厚生労働省側が確約していたにもかかわらず、いまだにその影響についての試算を行っておらず、小川淳也議員が試算を求めてもそれに応じるはっきりした姿勢を示そうとしなかった。ここにはやはり、「不都合な事実」が潜んでいるとみるべきだろう。  さて、賃金の上振れについては、昨年12月に「不正」が明らかになるまで、厚生労働省は、「サンプル入れ替えによる寄与」と「ベンチマーク更新による寄与」があり、「ベンチマーク更新の寄与」が大きいと説明していた。
毎月勤労統計:賃金データの見方

出所:厚生労働省「毎月勤労統計:賃金データの見方」(2018年9月28日)

(出所:厚生労働省「毎月勤労統計:賃金データの見方」-2018年9月28日)  しかし、この説明には虚偽がある。昨年12月に明らかとなった不正、すなわち、東京都500人以上の事業所について全数調査すべきところを3分の1の抽出調査にしており復元も行っていなかったものを2018年1月分から断りなく復元したことによる賃金の上振れの影響が含まれていない。  この不正は昨年9月の時点では隠されていたのだから、その影響が記載に含まれていないのはある意味で当たり前だが、ではその影響を含めるとどうなるのか、その要因分解を厚生労働省は国会質疑の答弁では示しているが、ホームページの上記文書は差し替えられていない。変更後の要因分解は、長妻昭議員(立憲民主党)の国会資料によれば下記の通りだ。
賃金新旧差要因分解

出所:立憲民主党(活動ニュース)「【衆院予算委】毎月勤労統計不正問題などめぐり長妻、大串、小川各議員が質問」(2019年2月4日)

(出所:立憲民主党 活動ニュース「【衆院予算委】毎月勤労統計不正問題などめぐり長妻、大串、小川各議員が質問」2019年2月4日)  さらに注目していただきたいのは、上記の「従来の説明」と「再集計値」のいずれにも、調査対象から日雇い労働者を除外したことの影響が記されていないことだ。まったく影響がないわけはないのだが、一切、説明に含まれていない。毎月勤労統計の毎月の公表資料に、日雇い労働者を調査対象から除外したことの説明がないのと同じだ。やはりここにも、「不都合な事実」が隠れているものと思われる。  この日雇い除外の問題については、2月14日の衆議院予算委員会でも小川淳也議員が根本大臣に問うている。2017年12月から2018年1月にかけて常用労働者数が100万人以上減少している、これは日雇い除外の影響であることの確認を求めたものだ。  しかし根本大臣は、ベンチマーク更新の影響が大きいのだと答弁し、日雇い除外の影響を認めようとしない。ベンチマーク更新とは、根本大臣の説明によれば、2014年の経済センサスの結果を反映して、抽出調査を母集団復元するときの規模別・産業別の構成割合を見直したことを指している。  しかし筆者は、この根本大臣が「ベンチマーク更新」と答弁していることの中に、実際には日雇い労働者を対象者から除外したことが含まれていると考えている。  2014年の「経済センサス 基礎調査」の調査票を見ると、「常用雇用者」の数を記入する欄には、「期間を定めずに、若しくは1か月を超える期間を定めて雇用している人 又は 5月と6月にそれぞれ18日以上雇用している人」という定義が書かれている。定義変更前の毎月勤労統計の「常用労働者」の定義と実質的に同じだ。  この経済センサスは2014年に実施されている。「統計調査における労働者等の区分等に関するガイドライン」(2015年5月19日)よりも前であるため、定義変更は反映されていない。  それに対して、2018年1月分からの毎月勤労統計では、調査対象から日雇い労働者を除外した。調査対象である常用労働者の定義から日雇い労働者を除外したということは、母集団復元する際にも、当然、日雇い労働者は除外しなければならないはずだ。  ということは、「ベンチマーク更新」の際に、従来の更新の際と同様に規模別・産業別の構成割合の変化を反映させるだけではなく、日雇い労働者を除外した労働者の構成割合に合わせる形でも母集団復元を行わなければならないはずだ。では、それは実際にどうやっているのか。  ぜひ小川淳也議員には、そこまで踏み込んで質疑を続けていただきたい。  2月13日の野党合同ヒアリングで、また2月16日の国会パブリックビューイングの街頭上映で、明石順平弁護士が指摘したように、2018年1月分からのベンチマークの更新の結果、下記の通り、5~29人規模の母集団だけが186万人ほど減少している。他の企業規模はいずれも増加しているのに、5~29人規模だけが大きく常用労働者数を減らしているのだ
毎月勤労統計:賃金データの見方

出所:厚生労働省「毎月勤労統計:賃金データの見方」(2018年9月28日)(丸囲いは筆者による)

(出所:厚生労働省「毎月勤労統計:賃金データの見方」2018年9月28日)  これを根本大臣は「ベンチマークの更新」の影響だと答弁しているわけだが、その「ベンチマークの更新」という言葉の中には、実際には「日雇い労働者を除外した形でのベンチマークの更新」という意味を含んでいるはずだ。そのことを認めてしまうと、日雇い除外の影響の試算を迫られるから、敢えてそこを曖昧にしているものと考えられる。
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野党議員はこの「穴」をさらに追及せよ
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